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米国に浸透する白人至上主義の実像

文=井戸恵午/ライター
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米国に浸透する白人至上主義の実像の画像1ロバート・E・リー将軍の銅像前で行われるデモ活動の様子(写真:AP/アフロ)

 ドナルド・トランプ政権が2年目を迎えたアメリカ。トランプ大統領の就任以降、懸念されているのが“分断”だ。白人と非白人、保守とリベラル……超大国アメリカの動向は世界に影響を及ぼすだけに、国際社会が注視している。

 昨年8月、全米を揺るがす問題に発展したのが、バージニア州シャーロッツビルにおけるロバート・E・リー将軍の銅像撤去をめぐる問題だ。白人至上主義のグループと対抗するグループが衝突し、死亡者が出る事件となった。

 リー将軍は、1861~65年の南北戦争で奴隷制度の存続を主張した南部連合国を率いた人物だ。そのため、「人種差別を助長する」とする撤去派と「歴史を伝えるものだ」とする保存派の対立を招いた。この事件を契機に、アメリカ各地で南部連合国に関係する銅像の撤去や道の名称変更を求める動きが活発化するなど、波紋が広がっている。

 これに対しては反発も強く、「やりすぎだ」「リベラル派の暴走である」といった批判も多い。いったい、この問題の本質はなんなのだろうか。一言で言えば、「アメリカ人の間の歴史認識の齟齬」に尽きる。

南北戦争は奴隷制をめぐる争いだった?

 まずは、アメリカ合衆国とアメリカ連合国(南部連合国)が壮絶な戦いを繰り広げた南北戦争について見てみよう。これは、南部諸州が「アメリカ連合国」として独立しようと「アメリカ合衆国」に戦いを仕掛けたものである。

 そして、「奴隷制をどうするか」というのが重要な争点であった。かつては「北部工業資本と南部プランターの経済戦争」とする説が強く、日本では現在もそういった旨の説明をする人が少なくない。

 しかしながら、現在の歴史学における通説は「南北戦争は奴隷制をめぐる戦争である」というものだ。一方で、南北戦争をめぐっては、歴史学とは無関係にさまざまな理解がされている。なかでも、重要なポイントは2つだ。

 ひとつは、主にアメリカの黒人が持っていた「南北戦争は奴隷解放戦争だった」という歴史認識だ。これは、「南部連合国は奴隷制という“悪”を守ろうとしたのであり、南軍の将は邪悪であり、祀られるのは道徳的に瑕疵がある」という主張だ。

 もうひとつは、「失われた大義」(the Lost Cause)と呼ばれる歴史認識だ。南部は州権、つまり州としての自立性を守るために戦ったのであり、いわば「北部と南部の“兄弟げんか”であった」とするものである。そこでは、南部軍人の騎士道的な勇敢さが称賛されることが多い。

 そのシンボルとして、南軍銅像はもちろん、南部連合国旗もよく用いられてきた。そして、この理解の下では奴隷制は「良い制度」であったとされており、南北戦争の原因としても無視されがちである。その結果、「南軍関係者は南部の誇りであって、銅像の撤去などとんでもない」ということになっている。

20世紀初頭に黄金期を迎える白人至上主義

 つまり、南軍銅像をめぐる争いは、基本的にこの2つの歴史認識の衝突なのである。しかし、まだまだ掘り下げるべき問題が残っている。それは「失われた大義」の歴史だ。

「失われた大義」は、「南北戦争に敗北した南部人が、その傷心を癒す」という役割を果たしており、いわば南部人向けのものであったが、次第に北部にも広まっていった。その背景には、「失われた大義」が持つ白人至上主義思想がある。南部白人の勇敢さを称賛することには、「白人が最も優れた人種である」という主張も含まれていたのだ。

 1914年から始まる第一次世界大戦の直前になると南北間の和解が進められていくが、これは北部白人と南部白人の和解であった。つまり、「同じ白人同士だから」という理屈だ。このとき、「失われた大義」の白人至上主義に北部白人が共鳴したのである。

 1910年代頃までに、アメリカでは「アメリカ化」と呼ばれる現象が起きていたことも重要だ。多種多様な人々が集まるアメリカにおいて、ひとつの「アメリカ人」への統合を目指す動きがあったのだ。

 アメリカ化は第一次世界大戦を契機に進展し、1920年代までに成熟期を迎える。しかし、このアメリカ化は白人のみの「アメリカ人」を創出することを目指したものだった。また、この時期は日本人に対する排斥も激しく、日系人は「帰化不能外国人」として入国が禁止された。

 20世紀初頭は、白人至上主義の黄金期といえる。そのなかで「失われた大義」はアメリカの白人たちの間に広まり、1924年にはシャーロッツビルにリー将軍の銅像が建てられることになった。

 この「失われた大義」の歴史は、2つの意義を持つ。ひとつは、南軍銅像は「失われた大義」の称賛、つまり白人至上主義の称賛の歴史の象徴であるというものだ。「南軍銅像を撤去すべき」という主張においては、この点を見過ごすわけにはいかない。

 もうひとつは、「失われた大義」が形を変えて今も根強く残っていることだ。60年代の公民権運動は白人至上主義に大きな打撃を与えた。現在の歴史学の通説においても「失われた大義」が支持されることはなく、それを公に主張することは現代のアメリカではリスキーである。

 しかし、そうした歴史観は急速に衰退したわけではなかった。たとえば、70年代には北部でも南部連合国旗が人気を博したことがある。また、同年代にはフロリダ州北西部において、学校に掲げられた南部連合国旗の撤去を求める運動が展開されたが、地元の白人が猛烈に反発した。

 さらに、2015年に行われた世論調査によれば、約6割の白人が「南部連合国旗は南部の誇り」と答えている。これをもって「すべての人が奴隷制や白人至上主義を強く支持している」とはならないが、銅像撤去に反感を抱くような歴史認識を持つ人が少なからず存在しているということは間違いない。

 南軍銅像撤去をめぐる問題は、南北戦争に対する歴史認識の衝突であった。また、同時に南北戦争をめぐる「歴史認識の歴史」によっても醸成されてきた衝突といえる。それだけに、これは「保守とリベラルの対立」という単純な構図だけでは説明しきれない問題でもあるのだ。
(文=井戸恵午/ライター)

井戸恵午/ライター

井戸恵午/ライター

フリーのライター。主にWEBメディアで執筆中。

Twitter:@idokeigo

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