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大渕愛子氏とアディーレ、超厳しい懲戒処分を受けた理由…弁護士会の見えざる手?

文=深笛義也/ライター
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大渕愛子氏とアディーレ、超厳しい懲戒処分を受けた理由…弁護士会の見えざる手?の画像1アディーレ法律事務所・丸の内支店が入居する新丸の内ビルディング(「Wikipedia」より/Kakidai)

 3月27日付当サイト記事『質劣化する弁護士たち…勝手に和解成立、裁判を放置、預け金を着服、守秘義務破り』では、弁護士業界における懲戒処分の実態について紹介したが、今回も引き続き、ある法律事務所に所属する弁護士に話を聞いた。

 懲戒といえば、最近では大渕愛子弁護士アディーレ法律事務所の事例が記憶に新しいところだ。『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)への出演で知られる大渕愛子弁護士は一昨年、東京弁護士会から業務停止1カ月の懲戒処分を受けた。これは何が問題だったのか。

「依頼者がお金がない時に、日本司法支援センター(法テラス)が弁護士費用を立て替えてくれる『民事法律扶助』という制度があります。クライアントがこの制度を利用して弁護士費用を立て替えてもらった場合、弁護士は法テラスからもらうお金以外はクライアントからもらっちゃいけない、という仕組みです。大渕先生はそれを知らなくて、法テラスからお金を受け取って、それ以外にもクライアントから弁護士費用を取ってしまったため、それで業務停止を食らったんです。

 我々の業界では、業務停止はないだろうという見方がほとんどでした。よくよく聞いてみたら、懲戒請求されている手続き中に、弁護士会から大渕先生に、クライアントから受け取った弁護士費用は返しなさいという連絡があったんです。でも大渕先生は、返さなかった。それは、綱紀委員会、懲戒委員会の先生からの助け船だったわけですけど、それをピシャッと断っちゃった。これが、懲戒委員会の逆鱗に触れちゃって業務停止食らったという話なんですね。ちゃんと返していれば、業務停止にはならなかったでしょうね。

 戒告はあったかもしれませんけどね。業務停止って本当に辛いんですよ。戒告と業務停止の間には雲泥の差があります。業務停止の間は、本当に何もできません。裁判もできません。法律相談もできません。月々顧問料をくれている法律顧問をやっている企業があったら、それも全部、解除しなくちゃいけないんです。そうするとキャッシュインがゼロになるんですよ」

 昨年10月、アディーレ法律事務所に対して、東京弁護士会は業務停止2カ月の処分を下した。これは何が問題だったのか。

「弁護士には、広告規制があるんです。たとえば『用心棒弁護士』っていう広告打っちゃいけないとか、ポケットティッシュ配っちゃいけないとか、そういうのがあるんです。テレビCMは全然OKですし、アディーレも大丈夫だと思ってやってたんでしょう。アディーレが何をやったかというと、期間を限定して『着手金が無料!』と謳っていたのですが、同じことを何年にもわたってやっていたんです。似たような商法ってよくありますよね。『今日で閉店、大処分セール』ってずっとやってたり、『今なら50パーセント引き』っていうのをずっとやったり。

 一般の消費者から見ると、『今だけ無料』と言ってて、ずっと無料だったら、『こっちは損しないし、別にいいじゃないか』ということになるかもしれません。ただ、景品表示法という、いわゆるBtoC(ビジネス・ツー・コンシューマー)という、消費者を相手とするビジネスにおいては、どんな会社にも適用される法律があるんです。ビジネス全体を守るっていう発想からできた法律です。A社、B社、C社があって、本来は商品やサービスの質で競争しなきゃいけないのに、A社が毎日、『今なら50パーセント引き』ってやっていると、消費者はこれを選んじゃう。そうするとB社、C社の商品、サービスがよかったとしても淘汰されて、A社だけが残って独占してしまう。競争して切磋琢磨して発展していくということがなくなってしまうので、こういう消費者を惑わすような表示はやめましょう、というのが景品表示法の趣旨なんですね。

 消費者庁が一昨年、アディーレに対して景品表示法違反ということで行政処分を下しているんです。行政処分というのは刑罰ではないですけど、業者名は発表されますし、違う業界の例でいえば、工事入札停止などに該当するので、処分としては重いです。弁護士会としても、この法律事務所に処分を下さなければ、また『身内に甘い弁護士会』って言われかねない。『しっかり懲戒処分下しているから正当だな』という受け止め方が一般的だと思います。だけど処分を下すとしても、『消費者は困っているわけではないし、戒告でしょう』『業務停止ではないでしょう』というのが、実は弁護士の間での考え方だったんです」

弁護士会を訴えたアディーレ

 では、なぜアディーレ法律事務所は業務停止の処分を受けたのだろうか。

「2つの見えざる力が働いた、と考えられてます。ひとつはいわゆる目立っている、全国のお客様をかっさらってる、なんか儲かってるじゃないかっていう、ひがみやっかみ。テレビCMを打っているし、北海道から沖縄まで支店があるので大手と思われてますけど、彼らのやってる債務整理って、相談者が消費者金融から借りた金額を、専用のコンピュータソフトに入力すれば過払い金が出てくる、それをやってるだけですから。弁護士として成長できるのかどうか、疑ってしまいます。

 たまに離婚案件とかで、アディーレの弁護士が相手方になったりすると頭抱えるんですよ。本当に司法試験合格しているのか疑いたくなるような、トンチンカンな主張をされることがあります。法律家同士の会話ができないんですね。しかも離婚案件で、3カ月、4カ月やって、『これ解決できないな』となったら辞任しちゃうんです。そういう弁護活動も、非常に問題のあるところです。そんな内実なのに目立っていたというのがひとつ。

 もうひとつ、アディーレは東京弁護士会を訴えて裁判になっていたんですよ。その判決が去年の2月に出て、もちろんアディーレが負けたんです。毎年、弁護士会が主催となって就職説明会をやるんですよ。それぞれ法律事務所がブースを出して、1000人くらいやってくる司法修習生に、『うちの事務所にいらっしゃい』って勧誘するんです。その就職説明会に、東京弁護士会がアディーレを参加させなかったことがあるんです。アディーレに関する東京弁護士会への苦情があまりにも多すぎるというのが理由です。アディーレとしては、『就職説明会に参加していれば、複数人の新人弁護士を採用できた。当事務所は弁護士1人当たり、いくら分の売り上げを上げている。本来採用できるべき新人弁護士を採用できなかったので、何百万円の本来得られるべきであった売り上げが得られなかった』というような理屈で、損害賠償請求の裁判をやってたんですね。これが昨年、東京地裁で『参加拒否は合理的』として請求が棄却されたんです」

 裁判では勝った東京弁護士会だが、自分たちを訴えた法律事務所として、アディーレが印象づけられたというのは想像にかたくない。

「アディーレの元代表の石丸幸人さんは、2009年に東京弁護士会の会長に立候補したんですよ。結果は惨敗でしたけど、会長は派閥の順番で決まっていくものですから、立候補自体が、弁護士会の掟破りなんですよ。その後、アディーレ所属の弁護士が副会長に立候補して、泡沫で落選しましたけど、これも掟破りです。副会長は6名で、派閥ごとに何人って決まってるんです。今回はうちの派閥から2名の配分があるということになったら、派閥に1000人いたら、500人はこっちに投票する、残りの500人はそっちの人に投票するということになるんです。立候補者は6名で、全員が当選するんです。よけいな人が立候補するのは煙たがられますね」

東京弁護士会の画期的取り組み

 そんなこともありアディーレは、業務停止という厳しい処分を受けたのかもしれない。

「アディーレのお客さんは、数千人いたんですよ。それが業務停止ですから、依頼していた業務をやってくれなくなる。中断じゃなくて、全部の契約が終了になってしまうんです。しかも、アディーレに電話をしても通じないという状況なんです。これは弁護士会もわかっていた。数千人のお客さんが混乱するだろうというのは目に見えていた話なんですね。それもあって、業務停止はないだろうなっていうのが、弁護士の間での見方でもあったんです。まさか弁護士会が、数千人のお客さんを困らせるようなことはやらないんじゃないかと思ってたんです。

 その意味でも東京弁護士会の判断は、ずいぶん画期的だなと思ったということはありますね。東京弁護士会は何をやったかというと、アディーレ法律事務所対策室っていうのを設置したんです。『アディーレのお客さんだった方は弁護士会で相談を受けますので、こちらまで』というかたちで電話番号を書いて、広告を打ったんです。10台くらい電話機を置いて、10人くらいの弁護士さんが、アディーレのお客さんからの相談を受けたみたいです。初日なんかもう本当にパンク状態で、引っ切りなしに電話がかかってきたみたいです。

 それで何をするかというと、デスクの上には弁護士先生のリストがあって、『それでは○○先生を紹介しますので、そこに電話してみなさい』と、他の弁護士を紹介するんです。そのリストに載ってる先生というのは、どんな先生なのかなって思いますね。忙しい先生にはお願いできませんよね。そうすると、ありていに言えば、暇な先生ということになる。そういう先生に、弁護士会が仕事を割り振っているっていうのは、変な感じがしましたけどね。確かにお客さんは困っているので、他の先生を紹介してくれるのは、それはありがたいことでしょうけど。そうとう弁護士会、混乱してたみたいです。

 弁護士業界では、アディーレは廃業するんじゃないかって囁かれていましたが、2カ月たったら再開しましたね。2カ月キャッシュインがなかったわけですから、よくもったなと思いますね。あれだけ支店持ってて家賃も払わなきゃいけないし、事務局や弁護士にも給料払わなきゃいけない。よく資金繰りできたなと思います。テレビCMも再開し、さすがに従来の『今だけ無料』方式はやってませんけど」

出る杭を打つ

 実際に問題のある弁護士や法律事務所があるのは事実だが、懲戒処分には別の側面もあるようだ。

「弁護士会というのは、出る杭を打つ会なんですよ。儲かっている事務所とか、目立っている先生を打ちます。テレビCMで派手に広告をやっているとか、テレビのコメンテーターをやっていて、しかも弁護士会の方針とは違うような『死刑賛成』とかいうことを言っていると目を付けられます。覚えめでたくない、と思われるわけです。ふだんは何もできないんですが、ひとたび懲戒請求が持ち上がってくるとイジメにかかるんですよ。どう考えたって、あのレベルの問題で大渕先生に業務停止はないでしょう。そういう目に遭わないためには、目立たないよう目立たないようにするしかないですね。

 弁護士会のなかで『雑巾がけ』という言葉があります。弁護士会にはいろいろ委員会があるんですけど、委員会活動をしっかりやってると、覚えがめでたいということになって、万が一のことがあっても助けてもらえるんです。弁護士会から紹介された、官庁の仕事なんかを引き受けておくと万全でしょうね。弁護士会自ら『信頼できる先生です』と紹介した弁護士を、なかなか懲戒なんかにできないですからね」

 顧客からの預かり金に手を付けてしまい懲戒処分を受けるのは、資金繰りに困っている弁護士だ。彼らが業務停止を受けた場合、どのように生計を立てていくのだろうか。

「業務停止を食らった個人の先生には、暴力団が寄ってくるんです。弁護士ですからいろんな法律知識持っているし、裁判のやり方も知っている。暴力団の情報収集能力はすごいので、全国で業務停止を食らった弁護士のところに連絡をするんです。『先生困ってるでしょ、ちょっと小遣いあげるから』って。キャッシュインがなくなった弁護士にとっては、渡りに船です。暴力団は債務整理をやってて、そういうお客さん集めるの得意ですから、『先生ちょっとこれやってくれないか』と頼むのです。

 弁護士会はそういう行為を把握すれば黙っていないですから、業務停止中に業務をやったということで、さらに長い業務停止処分を下す。そういう例をたくさん見てきています。それでまた、反社会的勢力と仲良くなってしまい、変な仕事ばっかりやってる先生もよく知ってます。裏技としては、会社の代表取締役であれば、裁判ができるんです。普通の一般市民が個人で訴状書いて、裁判所に提出すれば弁護士がいなくても裁判することはできますよね。同じように株式会社もできるんですよ。業務停止食らってる先生に、『先生ちょっと裁判やってくれよ』と言って、その時だけ代表取締役に据えるんです。そうすれば、書面も書けますし、裁判所にも行けます。弁護士としての業務じゃなくて、会社の社長としてやってるんだという言い逃れができるんですね。そういうことやってる先生もけっこういます」

懲戒処分を下す基準

 弁護士を闇の世界に誘うきっかけにもなり得る、懲戒処分。それは本人の責任だとも言えるが、懲戒処分を下すには明快な基準はあるのだろうか。

「懲戒請求するに当たっては、弁護士法もしくは弁護士職務基本規程に違反することとして、その条文を書かなければいけないんですよ。書かなければ、そもそもはねられてしまうという制度なんです。守秘義務に違反したとか、預かり金を着服したという場合は、それは明らかです。弁護士法に守秘義務は書いてありますし、弁護士職務基本規程には、着手金と報酬金、事件で使う預かり金、これは別に管理しなくてはいけないって書いてあります。契約書をつくらなくてはいけないということはちゃんと書いてあるので、契約書をつくらなかったという形式犯でアウトになる場合があります。

 ただ弁護士法第56条に『品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける』という条文があって、99パーセントの懲戒がその条文で来るんです。品位って何ですか? という話になりますよね。結局のところ、懲戒委員会、綱紀委員会の先生の考える品位になるわけなんですよ。基準なんて全然ない。これで、やられるんです。行動予測ができないんです。

 弁護士は結構、アグレッシブなこともやりますよ。特に企業間紛争だと、スピード勝負っていうのもありますし、書面をめぐる騙し合いに近いようにもなるんです。あとから卑怯だと言われる場合も、本当にあります。それが品位を害するのか害さないのかっていうのは、ギリギリのところなんですよ。我々もそれをやっていいのか悪いのかっていうのは、品位と言われると判断がつかない。契約書をつくらないといけないとか、報酬を説明しないといけないとか、守秘義務守るとかいうのは、わかりやすいので、当事務所でも毎月勉強会をやっています。クライアントとの接し方、相手方の弁護士との折衝の仕方とかなら、いくらでも教えられることですけど、いわゆる法廷テクニックとなると、どこまでやっていいのかわからないですからね。これは恐ろしい話です」

 法律に沿って裁きを決めるのが法廷だと思われがちだが、そこはルールなき戦場なのかもしれない。
(文=深笛義也/ライター)

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