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年金制度を危機に晒す「年金機構」の実態…国民の個人情報を中国に漏洩、年金過少給付

文=佃均/フリーライター
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 ではデータ入力業者はスキャナーを使わないかというと、そんなことはない。秘匿すべき項目が数多く含まれる書類を入力する場合、専用のソフトで項目をバラバラにする「イメージカット」の処理をする。項目ごとにつくったファイル単位で、大勢のオペレータがキーボードで一斉に入力していく。専用ソフトがないと復元できないし、情報がバラバラになっているので、入力作業の段階で個人を特定するのは不可能に近い。

 もう一つの勘違いは「契約では、オペレーターが2人1組で手入力することになっていた」という報道だ。オペレーター2人1組で入力するのは「ダブルエントリー」と呼ばれる方式で、ソフトが検出した相違箇所をその都度(あるいは最後に一括して)直すやり方だ。家庭の主婦や学生など素人のパート、アルバイトでもパソコンで作業できるメリットがある半面、品質が相違箇所を検出するソフトの精度に左右されるし、2人がそろって誤れば相違として検出されない。SAY企画が採用したのはこの方式と思われる。

 対して真っ当な入力会社なら、JIS第1・第2・人名・地名漢字の文字コードをすべて記憶したオペレーター20人にスーパーバイザー、専任SE(システムエンジニア)、データチェッカーがチームを編成し、分割された画像から「連想方式」と呼ばれる専門システムで一斉に入力する。パソコンで一般的なカナ漢字変換方式と違って、例えば「加」という漢字なら「ka・ro=カ・ロ」、「吐」なら「ro・to=ロ・ト」という具合に、ヨミがわからない漢字でもカナ2字(キーボード4タッチ)で入力することができる。熟練のオペレーターなら、1時間に漢字8000文字(氏名が漢字5文字平均として1600人)を打てるという。

「記事を書いた人がデータ入力の現場を知らないのは仕方ないけれど、とてもプロの仕事とは思えない」

 ある大手入力専門会社の経営者が呆れて言う。

次々に「年金機構に問題アリ」の指摘

 
 年金機構が再発防止策をまとめていない段階なので、やや性急の感は否めないのだが、IT役務(プログラム作成、システム・オペレーション、データ入力・作成など)を受託する側から見たとき、今回の不祥事にどのような問題が潜んでいるのか、思うところを聞いてみた。

「まず価格ですね」と言うのは、データ入力専門会社で組織する日本データ・エントリ協会(JDEA)の事務局だ。JDEAは1971年の発足以来、毎年、「データエントリ料金資料」を策定している。オペレーターの給与、教育研修費、オフィス代、システム諸経費などを積み上げたもので、民間企業や自治体がデータ入力を発注する際、目安として利用している。

 その2017年版によると、漢字とANKが混在した入力を受託する場合、オペレータ1人当たりの月額は56万4600円となっている。SAY企画の受託条件「計800人」を「800人/月」と解釈すると、適正な受託金額は4億5168万円だ。ところが年金機構が入札前に見込んだ予定価格は2億4214万円で、適正価格の53.6%にすぎない。

年金制度を危機に晒す「年金機構」の実態…国民の個人情報を中国に漏洩、年金過少給付の画像2JDEA 「データエントリ料金資料(2017年版)」

 現役当時、一般競争入札を担当していた元官僚は「最大1300万人分もの大量データ入力を、従業員80人ほどの小さな会社に一括して発注するなど、リスクマネジメントができていない」と言う。経営者の健康状態、資金繰りでプロジェクトが頓挫する危険性がある。「10万人分単位に分割して複数の業者に並行発注すれば、リスクを軽減できるし仕上がりも早くなる」というのはもっともだ。

「ずっと前、年金機構や国保のデータ入力を受託したことがある」という会社の役員は、「仕事の進め方がおかしい」という。「年金機構がイメージカット処理をして、個別ファイルで入力するよう指示すべきだった」というのだ。自分でできなければ、イメージカット、入力、データ統合・復元の3つの工程に分けて、それぞれを別の業者に発注すればいい。前出の元官僚氏の指摘と重なる部分がある。

非正規職員がほぼ半数超でノウハウ断絶か

 
「そもそも氏名から入力する必要があったのか」という声もある。人口25万人の自治体で情報管理を担当するITのプロは、こう指摘する。

「所得税控除は年金受給者と扶養親族をヒモづける。必要なのは基礎年金番号とマイナンバー、それと本人確認用に生年月日。年金機構はマイナンバーの意味がわかっていたのだろうか」

 氏名、ヨミ、住所などを入力せずに済むなら、キーのタッチ数は大幅に減る。年金機構のセンターに入力オペレータを派遣してもらい、年金機構の管理下で入力作業を進めれば情報が流出する懸念もなくなる。

 一方、「財務省の目を気にして、年金機構が臭いものにフタの“事なかれ”に走り、コスト削減のために下請けを叩いている」という指摘は、一朝一夕に解決がつかない難問を意味している。非正規の有期契約職員がほぼ半数以上で、その多くが数年もすると契約満了で職場を去ってしまう。年金機構内部からは、「長年のノウハウが継承されず、ヒラメ目線(上しか見ていない)の場当たり的な仕事が横行している」「正規職員が非正規職員をアゴでこき使う。すると今度は非正規職員が外注の業者をアゴで使う」という匿名の情報も漏れてくる。悪循環を断ち切らないと、日本の社会保障が崩壊する。
(文=佃均/フリーライター)

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