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損なわれる行政への信頼…麻生財務相に透ける「たかがセクハラ」「たかが森友」意識の“罪”

文=江川紹子/ジャーナリスト

 たとえば、ジャーナリストの櫻井よしこさんは、4月2日の『深層news』(BS日テレ)で、次のように語っている。

「今の国会を見ていると、いまだに森友問題をやっているわけでしょ。もっと大事な問題があるということを、メディアの人も野党の人も考えて、一致団結してこの難局に当たろうという構えを見せないといけない」

 ネット上でも、例えば元大蔵官僚の高橋洋一・嘉悦大教授は今月14日にツイッターで、こんな発言をしている。

「モリカケ。(中略)どっちも、あの時ああ言ったぞという話で、中身はない下らんなあ。国際情勢が動いているのに国内でこんな下らんこと議論している暇はない」

「暇はない」と言いながら、両件に関する政権擁護の原稿を書いたりしゃべったりしているのはご愛敬と言うべきなのだろうか。

 確かに、この問題には長い時間を費やしすぎていると、私も思う。しかし、長引いている責任は、事実の解明を求める側ではなく、それに不誠実な対応をしてきた政府の側にあることを忘れてはならない。

 よく刑事事件を引き合いに、「安倍首相夫妻の関与は何ひとつ証明されていない」として、追及を続ける野党やメディアを批判する人がいる。埼玉大の長谷川三千子名誉教授もその1人だ。4月16日付毎日新聞の中で、同氏はこう述べている。

「刑事裁判でいえば物証も証言も動機も不十分なのにメディアが騒ぎ、うんざりしている」

 的外れのコメントとしか言いようがない。刑事裁判では、被告人が有罪であることを合理的な疑いをさしはさむ余地がないまでに立証する責任は、検察側にある。一方、行政の公正性、公平性が疑われている時に、正当性を説明する責任は政府の側にあるのだ。

 しかも、その説明の拠り所になるべき公文書の保存や開示が適切になされていないどころか、改ざんまでしていたことが明らかになった。国民が、後から政策の決定や執行過程を検証するプロセスがないがしろにされ、民主主義の土台が崩された。このことを軽視してはならない。

 そのうえ、行政の信頼性が損なわれているのは、この両件だけでなく、ほかにもいくつもの案件が明るみに出ている。厚生労働省では裁量労働制に関する不適切なデータとその調査原票が隠蔽され、さらには裁量労働制を不正に適用されていた野村不動産の社員が自殺し、労災認定されていたことを隠していた。自衛隊ではイラク派遣部隊の日報が隠され、大臣にも報告されていなかった。

 与党政治家におもねる官僚の対応、事実の隠蔽、公文書の改ざん……。公平性、公正性、適法性について曲がりなりにも国民が寄せていた行政への信頼は地に落ち、日本の民主主義はまさに底が抜けた状態に陥っている。次々に明るみに出ている行政の不祥事は、それぞれ別のものであるが、同じ時期に多発したのは「たまたま」ではなく、そこに通底する問題があるのではないか。それぞれの真相を解明する過程で、それを見つけ出さなければならない。

 確かに、北朝鮮の核・ミサイル・拉致の3課題やトランプ米大統領が押し進めようとしている保護貿易主義、さらにはシリア内戦やイランを巡る問題など、海外情勢はどれをとっても深刻だ。国内では、少子高齢化に伴うさまざまな症状が現れている。

「この難局」にあって、官僚は人事権を握る政権の顔色を窺い、あるいは組織のために、国民に嘘をつき、事実を隠し、物事の決定過程を記録した文書を改ざんする。そうかと思えば、大臣に対しても事実を報告しない。公正性や公平性は信頼できず、国会に出された文書や答弁も、どこまで信じていいかわからない。

 果たしてこれで、「この難局」を乗り切れるのか。地盤がグズグズになっている状況では、人は足を踏ん張ることができない。

 それを考えれば、「この難局」を憂慮し、危機感を覚える人ならなおのこと、「たかが森友」「モリカケごとき」問題を速やかに終わらせるためにも、もっと誠実な対応をとるよう、政府・与党に働きかけるべきだろう。メディアに文句を言っている場合ではない。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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