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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

中高年、ネット上で他人攻撃が過激化のワケ…現実への欲求不満が爆発、違う他人を許せず

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
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NHKスペシャル「不寛容社会」

 こうした「不寛容」に関するテーマが、2016年6月放送の『NHKスペシャル』でも取り上げられた。番組のなかで、「過剰反応を起こす人が、ネット社会で行動を起こしやすくなっている」ということが指摘されている。匿名で極端な主張を発信することができる社会になったのだ。匿名ゆえに極端に走りがちということもあるであろう。すると、それに呼応する人たちが出てくる。そして、実際には少数意見ではあっても、あたかも多数意見であるような印象を与えるようにもなるのだ。

 当調査において、今の日本社会について、「他人の過ちや欠点を許せる寛容な社会だ」という意見は41%であるのに対し、「他人の過ちや欠点を許さない不寛容な社会だ」がそれを上回り46%であった。「心にゆとりを持ちにくい社会だ」については、「そう思う」が62%に対し「そう思わない」が31%とちょうどダブルスコアという結果であった。「いらいらすることが多い」については、「そう思う」が66%、「そう思わない」が26%であった。

 3人に2人の割合で「いらいらすることが多い」という社会は明らかに望ましいものではないが、その怒りを誰かに転嫁しようとする行為こそが、より問題である。仕事をしていれば面白くないことはいくらでもあるが、少しでも状況を好転させるように努力してみたり、理不尽な状況にもある程度我慢をしてみたり、ストレスを解消する工夫をしてみるなど、こうした対応が社会性を身に付けた者の取るべき対応であろう。しかし、そうではなく誰かを誹謗中傷するということをはけ口としてしまうような事象が増え、「不寛容社会」を生じさせてしまっている。

ネットでの極端な行動が職場をも浸食し始めている

『NHKスペシャル』でも取り上げられたように、ネットの世界において誹謗中傷など、他者を攻撃する行動が多く見られるようになってきている。自分として面白くないこと、自分の考えや自分の常識には合わないことがあった場合でも、現実の世界ではなかなか行動は起こしづらい。リスクもある。しかし、ネット上においては、リアルな世界で行動に移すのと違って匿名で発信することができる。しかも、指を動かすだけだ。はるかにアクションのハードルが下がったのである。また、リアルな世界よりもはるかに広範囲な拡散性を持つという特徴もある。不特定多数へ向けて発信することが、その場において可能になったのである。

 ネット社会以前はマスコミ関係者や専門家でもなければ、不特定多数に対して発信することはできなかった。それがネット社会になって、だれもが発信できるようになった。それにより、自分が巨大な力を得たような、万能感の幻想を抱く人が出てくる。特に権力欲が強いのに現実世界でそれを満たすことができない人や、もともと攻撃欲求が強い人は、自分が世の中に対して影響力をもつことに酔ってしまう。

 それに対して反応があったり、同調するような意見があったりすれば、「自分は正しい」「自分には影響力がある」という思い、自己効力感を抱くことができ、それによってまたネットへの書き込みに拍車が掛かる。特に、大きな欲求不満を抱えているような状況では、発言内容が過激になりがちであるし、執拗に発信を繰り返すということにもなりかねない。

 こうしたことを繰り返していると、いつの間にか、クレーマー的な精神構造が身に付いてしまわないだろうか。何か少しでも気に入らないことがあれば、気軽にクレームを付ける、あるいは誹謗中傷をする。また、誰かが誰かを攻撃している書き込みなどに同調し、煽るような言動を行ってしまう。こうしたことが習慣化してしまうと、現実の場面でも、自分の考えや価値観に合わないことがあれば、すぐにクレームを付けるという行動に出てしまいがちとなる。

 実際に他者批判的な行動様式は、現実世界にも入り込んできている。職場における「モンスター社員」や「子ども社員」の出現の背景にはこうした事情があるのだ。そして、これらの行動の主体が、本来模範を示すべき中高年層に多いという現実がある。

 しかし、以上の状況は今の時代特有のものなのかもしれない。ちょうど今の中高年層の社会人たちが、これまで発信したくてもできなくて、鬱屈したものが溜まりに溜まっていたところに、不特定多数に対して、無料に近いかたちで、しかも匿名で発信できるという手段が現われ、飛びついている状況と捉えられなくもない。今の中高生などは生まれた時からこういう状況があるので、それ以前の世代のように特別なことだという意識は当然ない。“つながり”はともかく、それほど情報発信意欲は高くないのではないだろうか。ゆえに特に攻撃的な発信は少なくなるのではないだろうかと、希望をこめて思うのである。

 むしろ、今の社会人、特に欲求不満を溜め込んでいる中高年が喜び勇んでネットに流れ込んできている状況であり、これは一時的な現象であることを願いたい。
(文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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