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桶谷 功「インサイト思考 ~人の気持ちをひもとくマーケティング」

「い・ろ・は・す」フレーバーがヒットした「本当の理由」を知っていますか?

文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役
「い・ろ・は・す」フレーバーがヒットした「本当の理由」を知っていますか?の画像1コカ・コーラ い・ろ・は・す 天然水 みかん ペットボトル(「Amazon HP」より)

 ミネラルウォーターにフルーツなどのフレーバー(味や香り)をつけた、フレーバーウォーター。ニアウォーターとも呼ばれています。

 コカ・コーラシステムの「い・ろ・は・す」は、みかんやりんごなどのフルーツフレーバーにはじまり、最近では、なんとメロンクリームソーダのようなスイーツ系のフレーバーまで出しました。また、サントリー食品インターナショナルの「ヨーグリーナ&サントリー天然水」には、ヨーグルトフレーバーなのに透明という驚きがありました。

 しかし、このフレーバーウォーター、さまざまな飲料の「透明化」という話題性にとどまらず、人々の潜在的な気持ち・ニーズをとらえている、非常におもしろいマーケティングの題材になるのです。

フレーバーウォーターがヒットしている理由は、なんでしょうか?

「い・ろ・は・す」フレーバーがヒットした「本当の理由」を知っていますか?の画像2『戦略インサイト――新しい市場を切り拓く最強のマーケティング』(桶谷功/ダイヤモンド社)

 まず、最初に思いつくのは、味覚についてでしょうか。「水」のスッキリさに、「フレーバー」のほのかな甘みが加わって、水ほど味気ないわけではなく、かといって、ジュースほどは甘くない、ちょうどいい甘さになっているから、という理由です。

 でも、実は、もっと深い心理に本当の理由がありそうなのです。

「ミネラルウォーター(水)」は、味がないストイックな飲み物。これが身体に一番いいといった理性的な判断が働きます。ミネラルウォーターは、「味で飲む」というより、「頭で飲む」飲み物といえるかもしれません。ある意味「知的な、スマートな」イメージの飲料です。大人が飲んでいても、オフィスで会議中に飲んでいても違和感がありません。

 一方、甘い飲み物、たとえばジュース(果汁飲料)やコーラ飲料はどんなイメージでしょうか。中高生や学生が飲みそうな、ちょっと子供っぽいイメージがあるのではないでしょうか。また、「知的、スマート」というより、「楽しい、甘やかす」イメージです。重要な会議でジュースやコーラ飲料を飲んでいたら、かなり違和感がありそうです(もちろん企業の社風や業種によって違うと思いますが、堅い業種の、歴史がある大企業の会議に参加するときは、ジュースよりミネラルウォーターのほうが無難でしょう)。

 そうです。フレーバーウォーターは、甘いジュースのフレーバーを、水がもっている「知的な、スマートな」イメージで飲める。甘いジュースを、大人がオフィスでもどこでも恥ずかしくなく飲める飲料にしたのです。

「水」ではない、新しい需要を生み出したフレーバーウォーター

 あなたは、フレーバーウォーターを「ジュース」だと思っていますか? それとも、「水」だと思っていますか?

 フレーバーウォーターを飲まない人は、「ジュース」だと思っている人が多いでしょう。甘いし、みかんや桃が入っているのだから、もちろんジュースだと。

 一方、フレーバーウォーターをよく飲む人は、「水」だと思っている人が多いでしょう。フルーツといってもフレーバー(エキスや香り)だけ。なんといっても、「透明」なのは水の証。それに、「い・ろ・は・す」や「サントリー天然水」といったミネラルウォーターのブランドから出ているのだから、間違いなく水だと。

 そう、フレーバーウォーターをよく飲む人は、大人が飲んでもサマになる「水」と思っているのです。そして当然、自分以外のまわりの人も「水」ととらえていると思っているので、会議中でもどこでも堂々と飲めるというわけなのです。

 違う観点から言うと、「水」(フレーバーなし)を飲む人は、フレーバーウォーターをあまり飲みません。逆に、フレーバーウォーターを飲む人は、フレーバーなしの味気ない「水」をあまり飲みません。

 これを、マーケティング戦略的に言いますと、フレーバーウォーターは、味気ない水では取り込めなかった人々を、新たなユーザー(飲用者)として獲得し、頭打ちになっていたミネラルウォーター市場全体を拡大することに成功したと言えます。

 市場データで確認をしても、フレーバーウォーターの売上が、水(フレーバーなし)の売上に上乗せされるかたちで市場全体を拡大しています。水(フレーバーなし)の売上は下がっていないため、フレーバーウォーターは水の代わりに飲まれたのではなく、新たな需要を創造したと言うことができます。

今後、フレーバーウォーターは、どこまで広がるか?

 私が今後の動向で注目している点は、フレーバーがどこまでいったら、もはや「水」ではなくなるのか、という点です。フレーバーウォーター好きの人は甘くて美味しいフレーバーなら、どんどんトライアルしそう(試しそう)ですが、どこまでスイーツ系やジャンク系のフレーバーになったら、愛飲者でさえ「水」とは思えなくなってしまうのか。メロンクリームソーダの成否は、フレーバーウォーターの今後の広がりを占う意味でも興味を持って見ています。

 そして、世の中の人々から、このブランドはもう「『水』というより『ジュース』だよね」「大人というより子供の飲み物だ」と思われてしまう日は来るのか? 「水」から始まったブランド・アイデンティティは決して失われることはないのか? という点に注目しています。

ヒット商品の裏に「インサイト」あり

 普段、何気なく見ている商品。どういう人の、どういう気持ちを動かしそうか? そして、その商品はヒットしそうか、しなさそうか? 自分なりの予想を立て、その理由を人の気持ちから考えてみます。予想が当たったら、自分の感性は世の中の人々とシンクロしているということ。外れたら、自分のどこが人と違うのかを知る、いい機会になります。

 ヒット商品には、必ず人の気持ちを動かす何かがあります。その、人の心のホットボタンを「インサイト」と呼びます。この連載では、そういう人の気持ちを見ていきます。ぜひ、みなさんも一緒に考え、予想を立ててみませんか。
(文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役)

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

桶谷功/株式会社インサイト代表取締役

大日本印刷(株)を経て、世界最大級の広告代理店 J.ウォルター・トンプソン・ジャパン(株)戦略プランニング局 執行役員。ハーゲンダッツのブランド育成などに貢献。2005年、著書「インサイト」(ダイヤモンド社)で日本に初めてインサイトの考え方を体系的に紹介。2010年に独立し、(株)インサイト設立。マーケティング全般のコンサルティングを行う。コンサルティング実績は、食品・飲料・日用品・クルマ・医薬品・百貨店・ファッションEC・C2C・テック系サービスと多岐にわたる。インド・中国などでのインサイト探索・戦略開発や、イノベーション開発、独自メソッドの導入・教育も行う。他の著作に「インサイト実践トレーニング」「戦略インサイト」(ともにダイヤモンド社)など。企業・協会等での講演やセミナー多数。日本広告学会会員。グロービス経営大学院MBA講師。

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