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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

「お客様の笑顔」「仕事=やりがい大切」という危険な思想…多くの人を生きづらく

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
「お客様の笑顔」「仕事=やりがい大切」という危険な思想…多くの人を生きづらくの画像1「Gettyimages」より

仕事に「やりがい」を感じてはいけないのか?

 仕事はあくまでも生計を立てるための手段である。私も学生時代、できることなら就職は先延ばしにして、もう少し好きなことをして暮らしていたいと思ったものだった。でも、それでは暮らしが成り立たないので、仕方なく就職した。

 仕事は生計を立てるための手段。そう思えば、投入した労力に見合った金銭報酬や適正な勤務時間など、納得のいく待遇が与えられない場合は、正当な待遇を要求したいと思うだろうし、それが通らないなら辞めるという選択肢が当然のこととして思い浮かぶはずだ。

 ところが、仕事そのものに「やりがい」を感じるべきだということになると、たとえ投入した労力に見合った金銭報酬が与えられなくても、あるいは過酷な長時間労働を強いられても、だから辞めるということにはなりにくい。充実感や達成感、使命感があるからということで、一切文句を言わずに働く者が出てくる。

 それが搾取される働き方につながり、ときに過労死や過労自殺といった深刻な問題を引き起こすことになる。

 そう考えると、仕事にやたら「やりがい」を求めるのは、けっこう危険なことなのかもしれない。多くの人が抱える生きづらさの背景にあるのは、仕事に「やりがい」を感じるべきという考え方なのではないか。

「お客様の笑顔」「仕事=やりがい大切」という危険な思想…多くの人を生きづらくの画像2『自己実現という罠: 悪用される「内発的動機づけ」』(榎本博明/平凡社新書)

 では、仕事に「やりがい」は必要ないのか。一概にそうとも言い切れない。

 生活の糧を得るには、自分にできる仕事をして稼ぐしかない。でも、どうせ働くなら、嫌々仕事をするよりも、「やりがい」を感じながら仕事をするほうが、ずっと気持ちよく働けるだろう。

 ただし、仕事の「やりがい」というのは諸刃の剣みたいなものだ。働く人を活き活きさせる面があると同時に、不当な搾取に対する働く人の感受性を鈍らせ、結果的に働く人を苦しい状況に追い込む側面がある。そこに注意を喚起したいのである。

「お客さまの笑顔」「お客さまの満足」

 学生たちとアルバイトについて話していると、「お客さま」という言葉がやたら出てくるのが気になる。「お客さまの笑顔を引き出せるように」「お客さまに満足してもらえるように」がんばって働いているというのだ。そのことをいかにも満足げに口にするのである。

 かつて、学生がこのような言葉を口にするのを聞いたことはなかったのだが、このところよく耳にするようになった。学生のアルバイトのほとんどが接客業だが、そうしたアルバイトの現場で、「お客さまの笑顔」や「お客さまの満足」を強調し、それを引き出すべく、がんばるようにといった従業員教育が行われるようになってきた、ということだろう。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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