荻原博子「家庭のお金のホントとウソ」

金正恩、詐欺師的交渉術でトランプに完全勝利…米韓軍事演習を中止させた巧妙な「仕掛け」

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(写真:ロイター/アフロ)

 ビジネスの世界は生き残りをかけた戦いなので、「小が大を飲み込む」ということが往々にして起こります。

 通常は、圧倒的に力が強い相手に対して力の弱い者が立ち向かうのは不可能だと思われていますが、「交渉力を使えば可能」ということを見せつけたのが、今回の米朝首脳会談でしょう。直後なので評価は定まってはいませんが、私は、小国北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長が、大国アメリカのドナルド・トランプ大統領を相手に圧倒的な勝利を収めたのではないかと思います。

 一般的には、金正恩は喉から手が出るほど欲しかった国の安全保証の確約をトランプから引き出し、その代わりにトランプは北朝鮮から核の放棄を引き出したので、「勝負は五分と五分だった」といわれています。しかし、現実には、トランプは金正恩から何も引き出せないまま「北朝鮮を攻撃しない」という保証だけを与えてしまいました。

 なぜなら、金正恩はすでに、トランプが核廃棄を要求してもすぐには実施されない仕組みをつくっています。しかも、トランプは北朝鮮が嫌がる米韓合同軍事演習の中止まで表明しました。これは、まさに北朝鮮の思う壺です。

 トランプは自分を「優れたビジネスパーソン」だと思い込んでいるので、「金正恩を交渉の場に引きずり出せば、簡単に打ちのめせる」と考えていたようですが、実際は、金正恩のほうがビジネス(交渉ごと)にかけてはトランプの100倍も長けていました。ほとんど詐欺師のレベルに達しているといっても過言ではないでしょう。

 そこで、一連の金正恩の交渉術がビジネスではいかに有効かを、以下の5つのポイントに整理してみました。

・強い後ろ盾を得る
・相手の立場を熟知する
・自分の手の内は明かさない
・相手の弱みを逆利用する
・頭を抑えれば尻尾はついてくる

 では、順次見ていきましょう。

「強い後ろ盾」に中国を選んだ金正恩

 3月25日、金正恩は、それまで犬猿の仲といわれていた中国を初めて訪問しました。金正恩が北朝鮮を離れるのはトップ就任以降では初めてのことで、さらに初めて会う国家元首が習近平国家主席ということもあり、世界のビッグニュースとなりました。

 この訪中は、4月に板門店で行われる韓国の文在寅大統領との会談と、当初は5月に予定されていたトランプとの会談を意識したもので、金正恩は習近平を前に「我が国は緊張緩和のために、平和的な対話の方向に向かっている。金日成主席と金正日総書記の遺訓に照らして、朝鮮半島の非核化が実現するよう力を尽くしていく」と語ったといわれています。つまり、これから韓国やアメリカと非核化の話をするので、中国に「後ろ盾になってくれ」ということです。しかも、一度ならず二度も訪問し、後ろ盾になる確約を取り付けています。

 中国にとって北朝鮮は、小国だがなくなっては困る国。なぜなら、北朝鮮が崩壊すると国境を越えて大量の難民が中国国内に押し寄せてくるだけでなく、それまであった北朝鮮という“クッション”がなくなり、韓国やアメリカと直に対峙しなくてはならなくなるからです。

荻原博子/経済ジャーナリスト

大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説して活躍中。著書多数。

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