西川立一「流通戦争最前線」

イオンが開業した広島の「超アウトレットモール」が圧巻…常識逸脱で驚愕

「THE OUTLETS HIROSHIMA」

 アウトレットは在庫処分品、型落ち品、B級品などを販売するショップで、それらを集めた商業施設がアウトレットモール。米国発の業態だが、日本では1993年に埼玉県ふじみ野市に「アウトレットモール リズム」が開業して以来、日本ショッピングセンター協会によると、アウトレットモール(物販のアウトレットが約10店舗以上)が38ある。

 三井不動産の「三井アウトレットパーク」が13、三菱地所・サイモンの「プレミアム・アウトレット」が9、両社を合わせると約6割を占め、2大勢力となっている。かつては100カ所程度の出店も可能という見方もあったが、出店余地が狭まり、アウトレット市場の飽和もあり、近年は新規出店が減っている。

 そうしたなかで4月27日、2015年7月に「三井アウトレットパーク北陸小矢部」が出店して以来、約3年ぶりにイオンモールの「THE OUTLETS HIROSHIMA(ジアウトレットヒロシマ)」が広島市にオープンした。

 イオンは11年4月、国内最大級のショッピングセンター「レイクタウン」にアウトレットモールを出店しているが、今回は総賃貸面積約 5万3000平方mと約2倍で、中四国最大級の施設となる。

 アウトレットモールは、プロパーのショップが影響を受けず、ブランドのイメージを保つ意味もあり、大都市中心部から遠く離れた場所に設けられるのが一般的だ。そのため、より広域から客を集める必要があり、「御殿場プレミアム・アウトレット」のように観光地に近いところに出店し、観光客の立ち寄りを狙うケースも目立ち、近年は海外客のインバウンド需要も盛んだ。

 世界遺産の宮島や原爆ドームのある広島県には、国内外から年間約6700万人(16年各市町村延人数)もの観光客が訪れる。THE OUTLETS HIROSHIMAも、内外の観光客を取り込みながら、車で1時間50分圏を中心に、四国からも来場を見込み、年間来場者の目標は800万人に設定している。

従来のアウトレットモールにはない取り組み

 ファッション、スポーツなどのブランドを中心にアウトレットが127ショップ出店するのは、従来のアウトレットモールと変わらないが、大きく異なるのはアウトレットゾーンのほかに、アミューズメントやエンターテイメント、飲食を拡充したゾーンを大々的に展開している点だ。

「ほしかげシティ」ゾーンには、9スクリーンの「イオンシネマ広島西風新都」をはじめ、ボウリング場やバーチャルとリアルを融合したスポーツゲーム、最新VRゲーム、カラオケなどの総合アミューズメント施設「プラサカプコン」という巨大施設を誘致した。さらに、カーリングなども楽しめる通年営業の日本初のアイススケートリンク「ワンダーリンク」やトランポリンの施設も設け、子どもから大人まで幅広い層に対応している。

 3つに分かれる飲食ゾーン「にしかぜダイナー」も圧巻だ。約1000席、11店舗で構成されるフードコート「Food Forest(フードフォレスト)」は、イベント用のステージを設け、毎週、定期的に地元ミュージシャンによる演奏などを行い、約150席の観光ツアー団体向けの「事前予約制」のスペースも用意した。

 フードコートとレストランを融合したような店構えの店が軒を連ねて、横町のにぎやかな雰囲気を醸し出すのが「きんさい横町」。お好み焼をはじめ、地元の瀬戸内・広島の名店11店舗が出店している。普段使いからハレの日までのニーズに対応するレストラン街「グランドダイニング」は9店舗、十勝の豚丼、土佐料理など全国の名物料理の店も出店する。アウトレットモールにおいては近年、アミューズメント、エンターテイメント、そして飲食を強化する動きが盛んに見られるが、ほかではここまでの取り組みと展開は行っていない。

いかにモールに足を運ばせるのか

 アウトレットだけでは、もはや人を呼べない時代になりつつあるのかもしれない。その理由として、いわゆるアウトレットのためにつくられた専用品と呼ばれる商品の比重が高まり、アウトレットで取り扱う商品の魅力が薄れていることがある。

 在庫処分やB級品は供給に限りがある。専用品は不足する商品を補う意味で開発されたが、消費者もその存在に気がつき、手を伸ばすのをためらう傾向も強くなってきている。 この問題をどうクリアするのか、Eコマースでも値下げ品が溢れる状況で、いかにモールに足を運ばせるのか、リアルでしか体験できないコンテンツを付加することで解決しようという試みがTHE OUTLETS HIROSHIMAである。

 さらに今回驚いたのが、イオンリテールがスーパーマーケットの「イオンスタイル西風新都」を出店したことである。アウトレットモールにコンビニがあることは珍しくはないが、日常生活の需要に対応するスーパーマーケットは、半径1~2km圏が対象で、超広域のアウトレットモールとは商圏がまったく異なる。同時に存在することは本来あり得ない。

 その常識を破って出店したのは、アウトレット帰りの客と、施設の周辺住民双方に対応することで利便性を高める狙い。遠くから来店した客は近くのスーパーマーケットに立ち寄る必要もなくなり、周辺住民も近くにあれば便利である。

 通常の店舗と異なり、広域からの来店を意識し、土産物需要を取り込むため、広島の地酒や瀬戸内・広島の物産品などを充実、「オタフクソース」のコーナーも設けた。一方で、ステーキ、海鮮丼、パスタの専門ショップやバルを導入、総菜、弁当、おにぎりなども豊富に揃え、イートインスペースを設けて、飲食需要の取り込みも図ろうとしている。

 こうして従来のアウトレットモールの枠組みから大きく逸脱し、アウトレット以外のコンテンツを充実させることで、相乗効果を期待するTHE OUTLETS HIROSHIMA。Eコマースが台頭するなかで、アウトレットモールだけではなく、リアルの商業施設の存在が問われている。

 そうした状況のなかで新たな一石が投じられた。ゴールデンウィークということもあり、開業から10日間で70万人が訪れ順調なスタート切ったが、今回イオンがチャレンジした展開や取り組みがどう受け止められるか、今後の動向が注目される。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)

西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー、ラディック代表取締役

流通ジャーナリスト。マーケティングプランナー。慶応義塾大学卒業。大手スーパー西友に勤務後、独立し、販促、広報、マーケティング業務を手掛ける。流通専門紙誌やビジネス誌に執筆。流通・サービスを中心に、取材、講演活動を続け、テレビ、ラジオのニュースや情報番組に解説者として出演している。

Twitter:@nishikawaryu

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