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【大阪北部地震】活断層密集地帯での内陸直下型地震に要警戒…南海トラフ対策に過度な集中

文=木股文昭/元名古屋大学地震火山研究センター教授、東濃地震科学研究所副主席主任研究員
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内陸最大の震災 1891年濃尾地震

 
 私は岐阜県に生まれ育ったこともあり、列島で最大の被害となった内陸直下型地震、1891(明治24)年濃尾地震の被害を調査研究している。震源地は根尾川の上流で、そこから北西の福井県境と南東の愛知県境へと延べ80kmの根尾谷断層が活動した。

 当時岐阜県には1市25町922村があり、国の指示で各市町村は震災から1週間で死傷者の数や倒壊家屋数などの災害状況を整理した。現在もその記録は保存され、その資料から市町村における家屋全潰率を図2に示す。図には愛知県の同様な資料も示す。当時は全壊でなく「全潰」という言葉が使われた。

 断層が最大6~8mも動いたゆえ、断層沿いに全潰率の高い地域が見られる。一方、断層から離れた岐阜と大垣の間、いわゆる濃尾平野でも北部から南部にかけて、全潰率90%を越す町村がある。地震当時、この高い全潰率から、岐阜から名古屋にかけても根尾谷断層と同様な断層運動があったと考えられた。

 濃尾地震の時、岐阜と名古屋には世界に5台しかなかった地震計が設置され、地震の波を記録した。激しい揺れゆえ、地震計はガタガタのP波を記録し、ユラユラのS波で飛んでしまった。だが、世界で初の大地震の波形記録を残した。国は国土の確認の意味で列島の近代的な測量に取りかかっており、岐阜市の南部まで測量がなされていた。地震発生で測量はやり直しが必要になり、繰り返された。

 おかげで、地震時の地殻変動が、これまた世界で最初に検出された。断層沿いに根尾谷断層の南側が80cmほど隆起し、1mほど南東方向に動いていた。濃尾地震は近代的な地震学と測量学で世界最初に地震波動と地殻変動が把握された地震でもある。これらのデータを私たちが今日検討すると、地震時の地殻変動は根尾谷断層の動きだけで説明可能となった。

 では、なぜ断層から離れた濃尾平野でも多くの家屋が倒壊したのだろうか。

【大阪北部地震】活断層密集地帯での内陸直下型地震に要警戒…南海トラフ対策に過度な集中の画像3図2 1891年濃尾地震における岐阜県と愛知県の市町村ごとの家屋全潰率。資料未整理の地域が一部残る。活動した根尾谷断層を黄色線で、当時推定された岐阜・一宮線と称される断層を破線で示す。

断層直上のみならず 揺れやすい地域も要注意

 最近、国は地表地盤の軟弱さを示すデータから列島における揺れやすさを500mメッシュで求め、公開している(防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」)。濃尾平野での揺れやすさを図3に示す。揺れやすいと考えられる地域を赤色で示す。岐阜と大垣を結ぶ東海道線の少し北側から揺れやすい(揺れやすさ2以上)地域が濃尾平野南部に広がる。まさに濃尾地震での全潰率の高い町村分布と一致する。活断層から離れながらも、揺れやすい地域で家屋が倒れ、全潰率の高い町村が出現した。

 震源からさらに遠く離れた大阪市此花区(現)でも濃尾地震でレンガ造りの紡績工場が倒壊し、犠牲者が出た。この淀川沿いでは1946年南海地震で家屋倒壊により死者32人となる。これも揺れやすい地盤により揺れが大きくなり、多くの家が全壊したと考えられる。
 
 まとめよう。日本列島では海溝型の巨大地震だけでなく、規模の小さい内陸直下型地震が頻繁に発生し、犠牲者も少なくない。それだけに、地震防災を海溝型巨大地震に限定してはならない。また、内陸直下型地震では活断層の直上だけでなく、少し離れていても揺れやすい地盤では家屋倒壊で少なからずの犠牲者が生じる。私たちは、今回の大阪府北部の地震から「内陸直下型地震を決して侮ってならない」と学びたい。
(文=木股文昭/元名古屋大学地震火山研究センター教授、東濃地震科学研究所副主席主任研究員)

【大阪北部地震】活断層密集地帯での内陸直下型地震に要警戒…南海トラフ対策に過度な集中の画像4図3 政府が公開する全国揺れやすさマップ(濃尾平野周辺) 赤くなるほど揺れやすい地域(揺れやすさ係数2以上)。揺れやすさ1.0以下を青色で示す。拡大してクリックするとその土地の揺れやすさ係数が表示される。2以上は要注意。全国規模でこのようなマップが作成、公開される。

●木股文昭 1948年岐阜県生まれ 2012年名古屋大学地震火山研究センター教授を退職し、東濃地震科学研究所で副主席主任研究員。東海地域の地殻変動研究を通し地震防災を学ぶ。著書は『三河地震 60年目の真実』『三連動地震迫る』(共に中日新聞社)、『御嶽山 静かなる活火山』(信濃毎日新聞社)、『超巨大地震がやってきた』(時事通信社)

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