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アップルと日本のモノづくり企業の関係性に見る「大口顧客依存」の怖さ

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アップルと日本のモノづくり企業の関係性に見る「大口顧客依存」の怖さの画像1※画像:『アップル帝国の正体』(後藤直義、 森川潤著、文藝春秋刊)

 2018年5月上旬、米アップル社の時価総額が1兆ドル目前になったことがメディアで伝えられた。カリスマ経営者として知られたスティーブ・ジョブズ亡き後もアップルの繁栄は留まるところを知らない。

 iPhone、iPad、MacBook、iTunesなど、アップル社の製品やサービスは世界中で愛され、強固なブランドを築いているが、アップルのビジネス戦略には、ブランド構築とともに「徹底した秘密主義」があることをご存知だろうか。

 実はアップル製品のサプライチェーンは、2012年1月まではまったく公開されておらず、サプライチェーン側から公表することも許されていなかった。サプライチェーンが公開された当初、日本のメーカーは156社中31社。そこに名を連ねていたのは、ソニー、パナソニック、東芝、村田製作所、京セラなど名だたる企業だった。

 そんなアップルと日本のモノづくり企業との関係を丹念な取材で追った『アップル帝国の正体』(後藤直義、森川潤著、文藝春秋刊)には、アップルの徹底した秘密主義の実態が描かれている。

 その過程で見えてくるのはグローバル競争における日本企業の弱さと、一企業に依存する怖さだ。あらゆる業種、個人にとっても何か一つに依存することはビジネスにおいては潜在リスクだと言える。その怖さを本書から紹介してみよう。

■圧倒的優位を誇る「大口顧客」の副作用

 台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、最近ではV字回復を遂げているシャープは、2013年に「アップル依存」のために大きな痛手を被った経緯がある。

 シャープには「世界の亀山」という異名をとる三重県亀山の工場がある。当時、その第1工場はiPhoneのタッチパネル式液晶パネルを供給する専用工場になっていた。しかし、2012年末iPhone5の液晶パネルの発注数はそれまでの半数以下に減らされたのである。数カ月後、亀山第1工場の生産ラインは空っぽになってしまったという。

 同工場はアップルとの独占供給契約によって他の製品をつくることはできない。しかも、アップル側には、常に発注数を確保する契約上の責任は一切なかったのである。ひと月で最大720万台の液晶パネルをつくってきた工場がまったく稼働しない。その怖さは想像に難くないだろう。

 亀山第1工場には、独占供給契約というアキレス腱が潜在的リスクにもなっていたが、圧倒的優位を誇る大口顧客とのビジネスということで考えれば、規模に関わらずこのような関係性でビジネスが成り立ってしまっている企業もあるだろう。営業マンやフリーランスでも一人、もしくは一社からの仕事に依存している状態はある。

 大口顧客は、その経済圏に入れれば非常に魅力的なパートナーになるが、同時に副作用の強い劇薬でもあることは常々、気に留めておくべきだろう。

■日本のメーカーが凋落した理由

 著者は、アップルの周辺を取材する中で痛感させられたことがあるという。

 それは海外において日本企業の存在感が全くもってない、ということだ。米国のIT・電機産業を語る中で、著者から質問を投げかけない限り、会取材相手から日本企業のことが話題になることはなかったという。しかも、著者が日本人だと知っているにもかかわらずだ。

 本書は2014年に出版されているが、その現状が数年で大きく変わったとは考えにくい。グローバルなビジネス展開が企業の生き残りの道であると言われている中、これ由々しき状態だ。

 アップルとの関わりで惨敗を喫した日本企業にソニー・ミュージックがある。ソニーはiTunesへの楽曲提供に対して最後まで抵抗していた。その抵抗戦略は自社サービスの充実を促進することではなく、サービスを提供しないという消極的な防衛策だったという。

 その背景には日本独自の配信サービスだった「着うたフル」の存在やCD売り上げがまだ維持されていた状況があるが、今やどちらも過去のものだ。

 日本企業は、それまで成果を上げてきた「国内のルール」に固執する傾向がある。しかし、めまぐるしく移り変わるグローバルな競争の中では「ルールチェンジ」が当たり前だ。その流れを見通し、ついていくという発想に欠けることが、日本企業が凋落の道を辿る理由なのではないか、と著者は述べている。
(ライター/大村佑介)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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