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東京、高齢「買い物難民」増加が深刻化…栄養摂取に支障、健康被害の懸念

文=山田稔/ジャーナリスト

英国では年間8860億円の経済損失

 買い物弱者問題は、農水省だけでなく厚生労働省、国土交通省、経済産業省が関連対策事業を行い、総務省は実態調査を実施している。ひとつの省庁ではカバーしきれない広範な対策が必要な問題なのだ。

 経産省の「買い物弱者・フードデザート問題等の現状及び今後の対策のあり方に関する報告書」は、14年度に行った調査を踏まえて作成されたもので、日本国内の状況分析、展望に加え、欧米の実情が紹介されている。

 買い物弱者問題は、欧米では「フードデザート」(食の砂漠)として捉えられており、英国や米国の研究が先行しているという。

 ビタミンや食物繊維、ミネラルなどの栄養を摂取する機会が減ることによる健康被害、大型スーパーが郊外に進出することに伴う市内中心部の食料品店の廃業による街の防犯機能の低下、治安の悪化が犯罪の温床になる。さらには、コミュニティの希薄化。加えて、暮らしにくくなることによる社会的弱者が1カ所に集中して住むなどが、買い物弱者問題の負の側面とされる。

 英国の05年の研究によると、英国におけるフードデザートによる経済損失は60億ポンド(現在のレートで約8860億円)との試算も出ているという。これは食生活の劣化に起因する医療費の増加によるもので、英国全体の医療費の約10%にあたる。

 経産省の報告書は14年度時点での買い物弱者を約700万人と推計し、今後の展望として次の3点を指摘している。

(1)農村地域では過疎化が進むため、買い物弱者の母数自体は減少するが、問題は継続する。
(2)大都市、ベッドタウン、地方都市では高齢化率が上昇するため自動車での移動ができなくなり、買い物弱者化する高齢者が増える可能性がある。
(3)核家族による子育て世帯や単身高齢者世帯、非正規雇用者といった社会的弱者の間で問題が発生し、深刻化する可能性がある。

 買い物弱者・フードデザート問題は、高齢者だけの問題ではない。格差社会、共働き社会の写し鏡だ。より下の世代に広がりかねない。しかも、現状では抜本的な対策はなく、自治体と民間による対症療法的な対策しか打てていない。

 この先、どうなってしまうのか。実効性のある対策は何かを改めて考えてみたい。
(文=山田稔/ジャーナリスト)

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