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日本対ベルギー戦直前!西野監督、非難の的になることを厭わない「天才的勝負師」の戦術!

文=安藤隆人/サッカージャーナリスト
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大ブーイングの中でのボール回し

 そして、ピッチ上ではあの衝撃的な光景が展開された。このまま試合を終わらせれば決勝トーナメント進出が確定するという状況ならよくある光景だが、終わらせても確定はおろか、セネガルが同点に追いついた時点で敗退が決まるという、他力本願の大きな賭けだ。

 まさに世紀の大博打というか、これまでの数多くのサッカーの試合でも見たこともないようなシチュエーションでの無難なパス回しがピッチ上で繰り広げられた。

 さらに西野監督は自らの決断をピッチ全員に強烈なメッセージとして伝達するために、82分にFW武藤に代えて、守備的MFである長谷部を投入。長谷部のプレースタイルとリーダーという伝達力をピッチに送り込んだことで、完全に「このままで終わらせる」というメッセージが全体に伝わり、ここから自陣でゆっくりとしたボール回しが始まった。

 この展開に、スタジアムはたちまち特大のブーイングで包まれた。これは当然のことといえる。なにしろ、世界ナンバーワンを決める4年に1度のW杯の舞台で、誰もが見たことがないような現象がピッチ上で起こっているのだ。

 日本サポーターなら戸惑いながらも、理解は示せるが、試合を「エンターテインメント」として観に来た地元のロシア人や各国のサッカーファンの目からすると、怒りすらこみ上げてくる“あってはならない風景”だった。

 だが、ベンチ前に立つ西野監督の意志は固かった。並の人間では選ばない、いや選べない方法を決断し、ブーイングをものともせずにピッチ上で黙々と自分が指示したタスクを遂行する選手たちを見つめる。

 これはとてつもなく強固なメンタリティーと覚悟がないとできない。もしセネガルが追いついたら、この決断は「世紀の愚行」になるわけだ。失敗のリスクはとてつもなく大きい。だが、西野監督は自分が非難の的になる覚悟の上で、自らが信じる「もっとも確実に決勝トーナメント進出を勝ち取る方法」を迷いなく行った。

 ピッチの選手たちはいろいろな思いを抱きながらも、指揮官の決断にきっちりと応えた。試合終了まで10分間以上、ゆったりとボールを回した。ポーランドもほとんどボールを奪いにくる姿勢を示さなかったことで、試合はそのままタイムアップ。

 そして、ポーランド戦タイムアップの数分後に、コロンビア対セネガルも1−0で試合終了。この瞬間、西野監督は「世紀の大博打」に勝った。グループHを2位でフィニッシュし、決勝トーナメント進出が決定。大会前は3戦全敗もあり得ると予想されていた日本が、大方の予想を覆すかたちで大きな結果を掴みとった。

大博打に勝った西野監督

 ポーランド戦から一夜経ても、西野監督の決断には賛否両論が巻き起こった。日本国内では結果を手にしたことでポジティブに捉える方も多いが、海外メディアやファンからは否定的な意見が多く上がる。

 もちろん筆者も今もなお、もやもやした思いを抱えている。しかし、自分だったらひとつの組織のリーダーとして、強烈なプレッシャーの中であのような決断ができただろうかと自問する。答えはノーだ。一歩間違えれば失うものも大きい決断を下すことはできないだろう。そう考えると、西野監督はかなりハイレベルな打算的マネジメントをやってのけた。

「本意ではないが、他力を選択した」と試合後、西野監督はリアリストに徹したことを説明。さらに、指示を遂行した選手たちに対して謝罪の言葉を口にした。

 西野監督も人間だ。いろいろな思いはあっただろう。当然、信念に反することもあったかもしれない。だが、彼は確率を摸索し、現実的だが、かなりリスキーな大博打を打って、結果を掴みとった。その事実は変わらない。

 監督、指揮を執る人間は、困難な目標を達成するために、時にはすべてを振り切った決断を必要とすることもある。それをポーランド戦で西野監督は自らの大博打で示したのだ。
(文=安藤隆人/サッカージャーナリスト)

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