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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

「仕事で自己実現、成長していこう」を掲げる会社が社員を壊す

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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悪用される心理学理論

 ややこしいのは、企業側の言っていることも、心理学的には間違っていないということだ。だからこそ多くの若者が引っかかってしまうのだ。

 たとえば、困難に直面してがんばり抜くことで潜在能力が開発される、それが自己実現への道だ、という理屈は、けっして間違っていない。追い込まれることで潜在能力が引き出される。それが成長につながる。

 だが、その困難な目標が企業側にとって都合よく設定され、しかも、そのがんばりに金銭的に報いることがないという点が問題なのである。

 待遇の悪さを棚上げして売上を伸ばしたり、利用者の利便性を考えてサービス残業をしたりと、無理することで自己実現に近づくことができるといった吹き込み方は、明らかに心理学理論の悪用といえる。

 こうした心理学を利用した洗脳にさらされても自分を見失わずに抵抗できるようにしておかないと、身を守ることができない。そのためには、心理学理論についても知っておく必要がある。

 ここでは、悪徳経営者が従業員を酷使しようとする際によく用いられる、内発的動機づけと外発的動機づけについて、簡単に解説しておきたい。
 
 知っていれば、「あっ、これは内発的動機づけを強調して低賃金で酷使しようという手法だ」と気づくことができるので、罠にはまらずにすむ。

内発的動機づけの大切さ

 人間には、ご褒美や罰といった人から与えられる報酬(ご褒美は正の報酬、罰は負の報酬)によって動かされる面があると同時に、そういったものがなくても自分から動く面もある。そこで注目されるようになったのが、内発的動機づけである。

 探索行動や遊びのように、人から与えられる報酬がなくても、活動すること自体を目的として取られる行動に着目した心理学者マレーは、モチベーションを外発的動機づけと内発的動機づけに区別する必要を唱えた。

 たとえば、子どもたちは喜んで遊び回るが、それは遊ぶとご褒美がもらえるからではない。人から報酬を与えられなくても積極的に遊ぶ。遊ぶことそのものが楽しくてたまらないのだ。その場合、人によって、つまり自分の外側から動機づけられているのではなく、自分の内側から動機づけられているのである。

 給料や昇進のように人から与えられる報酬を外的報酬といい、熟達感や成長感、充実感、達成感、好奇心など本人の内側から湧き出てきて満ち足りた気持ちにさせる報酬を内的報酬ということは、すでに前回解説した。

 そして、外的報酬によってやる気にさせるのが外発的動機づけ、内的報酬によってやる気にさせるのが内発的動機づけである。

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