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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

日本人だからこそロシアと因縁の国・フィンランドの合同コンサートで奇跡の光景を起こせた

文=篠崎靖男/指揮者

 陸上競技がタイムを競うのとは違い、芸術は明確な判断基準を持って評価することは不可能ですし、あまり意味のあるとはいえません。僕は、このランキングを“遊び”と思って楽しんで読んでいますが、確かにこの3つのオーケストラが選ばれるのは納得です。ロシアは音楽教育水準がとても高く、世界的な指揮者、ピアニスト、ヴァイオリニスト、歌手を常に輩出し続けていますし、そんな最高級の教育を受けた音楽家たちで構成されたオーケストラですから、水準はとても高いです。これは、オペラやバレエの分野も同じで、世界的に有名な劇場もたくさんありますし、定期的に日本公演も行っており、毎回満席となります。

 僕は2回、ロシアで指揮をしたことがあります。正確にいいますと最初は、当時芸術監督を務めていたフィンランドのオーケストラを率いてサンクトペテルブルクで演奏したのです。そして2回目は、ベスト20の常連でもある、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団との合同演奏会でした。場所は、ロシアの音楽の歴史を刻んできたボリショイ・ザールで、シベリウスの「フィンランディア」を演奏しました。

 フィンランディアは日本の小学校での鑑賞教材になっていたので、聴いたことがある方も多いと思います。音楽の内容は、フィンランドがロマノフ家の帝政ロシアの圧政に苦しめられていた時代にさかのぼります。独立の機運の高まりとともに、国民的作曲家だったシベリウスが作曲し、あっという間に人々の心をつかみました。まるで国歌のようにメロディーが歌われ、その後のロシア革命によって皇室が倒されたのをきっかけに、フィンランドは悲願の独立を果たします。

 僕はフィンランドとロシアの合同演奏に、あえてこの曲を選んだのです。どちらの国にも属さない日本人だからこそ、できたのかもしれません。とはいえ、正直なところ、実際にリハーサルが始まるまでは心配でした。フィンランドの楽員にとっては、ロシア人とは演奏したくないかもしれない。フィンランド人いわく、曲の重々しい出だしはロシアの圧政を表現しているとのことで、ロシアの楽員も複雑な気持ちになるのではないだろうかとも考えました。

 しかし、あえて両国の楽員によってフィンランディアを演奏することに、大きな意味合いがあると考えたのです。楽員だけでなく、観客までもが、音楽の力によってお互い理解し合い、手を握り合ってほしいとの願いを込めました。

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