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江川紹子の「事件ウオッチ」第107回

【オウム真理教・7人同時死刑執行】賛否両論巻き起こる死刑制度について江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト

 むしろ、平成の大事件であるオウム事件を平成のうちに区切りをつけることを考え、皇室行事や自民党総裁選、法務省の人事異動時期、法相の外遊日程などを避けた結果、この時期になったと考えるのが自然だと思う。1月に共犯者の裁判がすべて確定したので、それから6カ月以内に執行するのは、法の建前でもある。

 しかし、法務省が情報を明らかにしないので、私が述べていることも推測の域を出ない。「政治利用」論者は頑固で、私の説明くらいでは納得しない。現在の各種世論調査では、政権支持は回復傾向とはいえ、不支持を下回っているものもある。「政治利用」論が広がる土壌はないとはいえない。

 内閣府の世論調査では、8割が死刑制度の維持を支持しているが、今後も制度維持をしていこうというのであれば、国民の制度に対する信頼は大切である。今の、あまりに不透明な制度は改めていく必要があるのではないか。

 また、死刑廃止を求めている団体によれば、今回執行された7人中6人が再審請求中だったという。麻原の場合、これまでに3度の再審請求をすべて退けられ、執行時は4度目の請求中だった。再審請求をしている間は執行が行われないとなると、本来は冤罪救済の手段である再審が、執行引き延ばしに利用され、深い反省の元に死刑を受け入れた者との間で不公平が生じる。法務省は、昨年7月と12月にも、いずれも複数回目の再審請求中の死刑囚の執行を行っており、再審請求中であれば死刑執行しないというわけではない、という立場を明確にしている。麻原が再審請求中だからといって執行を妨げなかったのは、正しい判断だったと私も思う。

 ただ、今回の執行対象者には、井上のように初めての再審請求を出したばかり、という者もいた。しかも井上の場合、地下鉄サリン事件での役割についての評価が一審と控訴審では異なり、量刑も無期懲役から死刑へと転じた経緯もある。再審請求審に原審には出ていなかった証拠を提出したのであれば、それについて司法の判断を受ける機会は認めるべきだったのではないか。

 大切なのは、司法判断だけではない。「地下鉄サリン事件被害者の会」の代表世話人の高橋シズヱさんは3月に、同事件の死刑囚との面会や執行前の通知などを求める要望書を上川法相に渡している。高橋さんは、「死刑が確定した今、何か伝えたいこと、私たちが聞きたいことが裁判とは別にあるんじゃないかと思っています」と述べていた。

 事件の全体像は裁判で概ね明らかになったとはいえ、経緯や役割などについて、被告人同士で対立していた事柄もあった。たとえば、地下鉄サリン事件で使われたサリンの原料となった化学物質について、井上は中川が保管していたと証言したが、中川はその後、井上の管理下にあった、と述べた。それによって、事件の全体像やそれぞれの責任の重さが大きく変わるわけではなくても、そうした事件の一つひとつについて、直接問い質したい被害者・遺族もいるだろう。

 また、未曾有(みぞう)のテロ事件を引き起こしたオウムについては、司法とは異なるアプローチで解明すべきこともある。ごく普通の、むしろまじめな若者たちが、なぜ、麻原に追随し、殺人の指示にまで唯々諾々と従ってしまったのか、その過程や行動を心理学やテロの専門家がしっかり検証することも、今後のカルト事件やテロを防止するためには必要ではなかったか。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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