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片山修「ずだぶくろ経営論」

パナソニックは「我慢」できるか…EVブーム終焉、テスラ・リスク、中国「ホワイトリスト」の存在

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

揺らぐEVブーム

 パナソニックとしては、テスラの「モデル3」の生産の遅れが気になるところだ。それから、車載電池の売り上げを左右する肝心のEV市場の成長見通しは、依然、不透明感がある。EVの現在の価格、電池メーカーの電池供給能力などからして、このままうなぎ上りで成長するとは考えられない。

 確かに世界の自動車メーカーは、排出ガス規制と燃費規制の対応に向けて、さまざまな側面から次世代環境対応車の開発に力を入れている。しかし、そのなかでEVの普及スピードはなかなか上がっていない。
 
 その証拠に、世界最大の自動車市場である中国では、EVブームの足元が少々揺らいでいる。中国政府はこれまで、エンジン車のナンバープレートの発給枚数をしぼるなど、規制や補助金を使って巧みにEV市場の拡大を図ってきたが、今後も今のペースでEV市場が拡大するかどうか。

 実際、EVへの補助金政策は2020年末で打ち切りになる。世界最大のEV市場の中国で、かりにもEVの勢いに陰りが見えるようなことがあれば、パナソニックの車載電池事業には少なからぬ影響が出るだろう。

 さらに、中国政府は地場の電池メーカーを育成する目的で、いわゆる「ホワイトリスト」を作成している。中国に一定規模の生産体制と研究拠点を持つなどの条件をクリアした電池メーカーをリスト化し、自動車メーカーが「ホワイトリスト」から電池を購入することを推奨している。ちなみに、パナソニックは「ホワイトリスト」には入っていない。

問われる“我慢”と“覚悟”

 また、中国の二大電池メーカーのBYDとCATLが急速に力をつけていることも、パナソニックにとっては脅威だ。AIS社上席副社長でエナジー事業担当の田村憲司氏は、投資家向け説明会の席上、次のように述べた。

「最近では、CATLとBYDが中国で大きく生産量を伸ばしています。カーメーカーは補助金などのリスクを含めて、中国の地場の電池メーカーからの調達をしています。彼らの実力値はどうか。価格などいろいろな側面から調査しています。量産効果による優位性については、まだまだと見ていますが、近い将来、彼らも力をつけてくる。我々としては、同じ土俵で戦うのではなく、技術面で競争していきたいと思っています」

 日産は、18年後半に中国で発売する中型セダン「シルフィ」のEVにCATLの電池を採用するほか、ホンダも車載電池の分野でCATLと協業することを発表した。激化する競争に対して、パナソニックは強みとする高出力、高容量などの性能で差別化を図る計画だ。

「現時点で自動車向けの供給量においては、グローバルナンバーワンであると認識していますが、今後は単に量を追いかけるのではなく、収益性と確実な投資回収を念頭に、質を重視し、段階的に投資を進めていきます」(伊藤氏)

 パナソニックが電池を含むデバイス事業を家電からクルマに“転地”した目的は、「稼ぐ力」をつけることだ。本命の電池が「稼ぐ力」をつけないことには、“転地”は成功したとはいえない。

 パナソニックは、どこまでリスクに耐えつつ、攻めの投資を進められるか。カギを握るのは、社長の津賀一宏氏の覚悟だ。「長い目をもって見ている」と5月10日に開かれた2017年度決算説明会の席上、津賀氏は語った。

 問われるのは、どこまで“我慢”と“覚悟”をもって、車載電池事業にのぞめるかだ。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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