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それでも麻原を治療して、語らせるべきだった…「オウム事件真相究明の会」森達也氏による、江川紹子氏への反論

文=森達也/作家・映画監督・明治大学特任教授、「オウム事件真相究明の会」呼びかけ人

 自らの法廷でも、忠誠を誓っていたはずの井上嘉浩元幹部までが目前で「教祖の指示」を語る事態になった。相当に焦ったに違いない。第13回公判、井上証人への弁護人反対尋問中に、麻原は裁判長に対し尋問の中止を要求。「これは被告人の権利です」とも言った。

 しかし弁護人は結局、尋問を続行した。「教祖の指示」を語る井上証言は揺らがなかった。

 麻原にしてみれば、耳に入れたくない弟子たちの証言をやめさせようとしたのに、裁判所は受け入れず、弁護人も自分に従わず、不愉快な状況が続くことになったのである。これを契機に、麻原は弁護人に対して拒絶的になり、法廷でも不規則発言をくり返して審理を妨害しようとするようになる。

 江川氏のこの記述を読んだ人の多くは、麻原とは何と卑劣な男だと思うのだろう。しかし彼女が例に挙げた第13回公判については、事実関係はまったく逆だ。井上証人への弁護人反対尋問とは、その前に井上が証言したリムジン謀議に対しての、麻原弁護団による反対尋問だった。つまり麻原にとって、尋問の中止を要求することの利はまったくない。むしろ自分の立場がより不利になるのだ。ところが尋問中止を麻原は要求した。「不愉快な状況」を自ら選択した。これについては、ジャーナリストである魚住昭のブログ(http://uonome.jp/read/1362)も参照してほしい。

 補足するが、僕はこれを麻原の高潔な判断とは思っていない。宗教的高揚と精神の混濁が融合したゆえの判断だと思っている。

 ところが、この「真相究明の会」は、麻原の死刑回避ばかりを求め、元弟子たちの処遇には関心を寄せない。そんな人たちが言う「再発防止」とは何なのだろう。

 麻原の死刑回避は会の最終的な目的ではない。処刑の前にやるべきことをやろうとの趣旨だ。その一点で多くの人が賛同したのだ(その後に処刑すべきと考えている人も会には複数いる)。

 ただし僕は、死刑を廃止すべきと考えている。6日に処刑された麻原以外の6人の信者のうち、3人とは面会と手紙のやりとりを死刑確定まで続けてきた。それぞれ個性は違うが、優しくて善良で純粋であることは共通していた。処刑してほしくない。生きてもっと語ってほしい。ずっとそう思い続けていた。でも「麻原に語らせるべき」を基本理念とするこの会の趣旨とは違うから、記者会見の場では発言しなかった。関心を寄せないわけではない。僕は卵焼きが好きだ。でもおまえは卵焼きに関心がないのか、といきなり言われる。なぜですか、と訊けば、今日の弁当に卵焼きが入っていないからだと断定される。……無理やりな比喩としてはそんな気分だ。

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