
地方に住むCさん(81)は、口座を持っている地方銀行Dから貯蓄型の生命保険を勧められた。金融商品も組み込まれた比較的リスクもあるような商品だったため、それを知った息子は、「そんなものを親父に勧めないでくれ。今度、何かあるときには自分を通すように」と、銀行にクギを刺しておいた。
ところが銀行では、「保険が無理なら証券を」とばかりに、定期預金が満期になったとき、銀行にやってきたCさんを同じ建物の階上にあるD銀行系証券会社に連れて行った。証券会社は息子の承諾を得ることもなく、ノックイン型投資信託を勧め、口座開設にこぎつける。
そこで、Cさんは証券マンに勧められるままに、保有資産の大部分にあたる6990万円を注ぎ込んでしまう。ノックイン型投資信託とは、仕組みが複雑で、投資元本が保証されていない極めてハイリスクな金融商品だ。そして、その後の日経平均株価の下落によって、3000万円もの損害を被ったのだった。
C親子があおい法律事務所の荒井哲朗弁護士を代理人に立て裁判を起こすと、証券会社側は「契約の際には説明を尽くした」と主張した。しかし、Cさんは投資勧誘を受ける1カ月前に脳梗塞を発症し、勧誘を受けた当日の夜にも脳梗塞で倒れ、意識不明のまま入院していたのだ。投資信託の注文日時は、なぜかCさんの入院後となっている。
「そもそも、81歳の高齢者にこのような取引の勧誘を行うこと自体が、すでにおかしいんです」と、荒井弁護士は語る。
その後の判決では、原告には「歳相応の判断能力の衰えがあったこと、また、ノックイン投資信託のような商品についての十分な経験があったとは言えず、元本が大きく毀損されるリスクを取ってでも利益を得たいというほどの積極的な投資意向を有していたとも言えず」、被告については「原告の投資経験、知識、理解力に応じ、原告が自己責任で本件投資信託の取引を行うことができる程度に十分に説明しなかった」としたうえで、被告には損害分の全額には至らなかったものの、その6割の支払い命令を下した。
“回転売買”
それにしても、証券会社はなぜ81歳の高齢者にわざわざハイリスクの商品を買わせようとしたのだろうか。