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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

都立の杉並高校吹奏楽部が、全国大会の常連校になれた秘密

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント
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 また、そのパフォーマンスでは、「斬新さ」や「技術の高さ」を積極的にアピールしていません。テレビで演奏していたのは『ヤングマン』『負けないで』『ロッキーのテーマ』など、誰もが知っているなじみの曲ばかりでした。少しアレンジを加えたりして、さりげなく高い技術を見せる程度でした。

 ゴールを変えることは、このように結果とプロセスの大きな違いとなって返ってくる、ということです。

「難しくてできないこと」が全員が取得している最低水準

 もうひとつ、この吹奏楽部の裏側に存在するであろう仕組みは、レベルの高い集団にいることで、最低ラインが上がるということがあります。ある集団にとっては「難しくてできない」ことは、別の集団にとっては「全員が習得している最低水準」だったりします。

 彼らのように、毎年のように全国大会に行くような集団では、新入部員として最初に目にし、耳に聞こえるレベルが非常に高いはずです。そのような集団に入ると、人は自分が「もう少しうまくなるにはどうしたらよいか」などの曖昧な基準ではなく、「あのレベルに達するにはどうすればよいか」を考え始めます。技術的な目標がはっきりしていて、しかもそれがかなり高いため、普通にやっていてはダメだということに、相当早い段階で気づきます。ただし、3年弱という期限があり、しかも課外活動ですから、限られた時間をどう使うべきか、知恵を絞って工夫するようになります。

 周りより飲み込みが遅い人は、帰宅後や週末に練習をするでしょう。いわゆる“残業”ですが、それを自分のためにやります。そして、毎年その先輩たちの業績を越えることを求められ、またそれを自分自身の目的として達成しようとしているはずです。

 このような集団に属していることは、それだけで大きなメリットがあります。実際、部に入ったときのレベルは、全国のほかの高校性と変わらない人がほとんどだといいます。しかし、たった1年や2年の努力で、達成できることは天と地ほどの差ができてしまうのです。

40点の商品が60点になっても、誰も買わない

 さて、このような組織をつくるには、一にも二にも、管理職の役割が重要です。

 中間管理職であれば、培われてきた会社の文化がありますから、いきなりリーダーになったからといって、すぐに変えることはできません。しかし、世の中のほとんどの人が、現状に甘んじて目標がよくわからない組織で働くよりは、高い目標を掲げていつも何かが足りない状況で働くほうが、面白いと感じるはずです。

 仕事ではプラスを伸ばすことでしか、業績を挙げることができません。なんでも一通りできる、バランスのとれた人材を目指すべし、という考え方が、特に大きな組織では重視されがちです。しかし、ビジネスにおいてはそれが必ずしもよいとは限りません。

 理由のひとつは、学校の勉強と違って、仕事には点数の上限がないからです。学校の勉強、特に受験の勉強は、たとえば100点満点という上限があります。ですから極端な話、100点を取れるようになったら、その教科はそれ以上勉強する必要はありません。他の40点や60点の教科に集中すべきです。なぜなら、受験勉強とは範囲が決まっていて、点数の上限がある世界で、できないことをなくすことがその本質だからです。

 ところがビジネスの世界では“いいところ”からしか収益は生まれません。そして、その“いい”の基準が常に上がっていきます。ですから、100点が取れる人が増えてくると、過去の基準では150点くらいが、新しい100点になります。一方、ものすごくがんばって、40点を60点にしたところで、残念ながら1円の収益も生まれません。

 消費者の視点でこのことを見てみると、はっきりとわかります。あなたは100点の商品を買いたいはずです。同じ値段で、機能や質感が100点の商品と、80点の商品が並んでいたら、どちらを買うかは明白でしょう。メーカーがあなたに80点の商品を買ってもらうためには、値段を下げるか、改良して101点以上を目指す以外にありません。その一方で、メーカーが30点の商品に、ものすごい改良を加えて60点にしたとしても、見向きもされません。

 あなたが日常的に行っているこの選択こそが、まさにビジネスの現場で行われていることです。

 ですから、管理職はメンバーの悪い点の克服に目を向けるのではなく、よいところを伸ばすことを心がけるべきです。あるメンバーに弱みがあれば、それを得意とする人に補ってもらえるよう役割分担を見直したほうが、成果が上がることでしょう。

 長所を伸ばすというのは、子供向けの精神論だけでなく、ビジネス的にも正しいのです。管理職が部下の能力を引き出すためには、顧客志向であること、最低のレベルを上げること、そして長所を伸ばすことが重要です。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

●山崎将志
ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。
2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。最新刊は『「儲かる仕組み」の思考法』(日本実業出版社)。

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