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成馬零一「ドラマ探訪記」

朝ドラのルール逸脱した『半分、青い。』が大ヒット…ずるくて疲弊したヒロインに注目

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家
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 仕事に対しても同様で、おそらく多くの視聴者は「なんらかのかたちで漫画の仕事を続けていくのでは」と思っていたのではないかと思う。結婚して家庭に入るために夢をあきらめるというケースは、これまでの朝ドラでも何度かあったが、才能の限界を知って辞めていく姿をここまで徹底的に描いたケースは、朝ドラはおろか女性のお仕事モノの中でもめったにない。

 恋愛も仕事も、自分が一番ほしかったものを手に入れることができないまま、鈴愛は20代を過ごす。物語は92年に漫画家デビューが決まった後、95年、99年と数話ごとに時間が飛ぶのだが、その間に鈴愛が疲弊して、若い頃の勢いを失っていくのが表情でわかる。同時に、当初から見え隠れしていた人間としてのタフさや小ずるさ、物事に対する打算的な考え方も少しずつ前面化しており、明るく行動的だが、恋愛にも仕事にも少し臆病になってきているのが見ていてわかる。

 描き方がコミカルなので気づきにくいが、鈴愛には年相応の女性の生々しさと等身大のかわいらしさがある。このあたりは、さすが『ロングバケーション』(フジテレビ系)の脚本家・北川悦吏子である。

『半分、青い。』は「平成史としての朝ドラ」

 そんな鈴愛の物語を通して描かれるのは、平成史としての朝ドラだ。鈴愛は71年生まれだが、彼女がたどる人生の出来事は、現在の40代が思春期に体験したバブル末期から平成にかけてどんどん貧しくなっていく日本の姿と重なる。秋風の華やかなスタジオで働く世界から100円ショップで働く現在への落差は、そのままバブル崩壊以降の日本の風景の変遷にも思える。

 物語の中心にあるのが鈴愛の仕事と恋愛のため、なかなか前面化することはないが、戦争を間に挟んだ昭和ではなく、来年4月で終わる「平成」という時代を舞台に朝ドラを描ききろうとする本作の試みはとても冒険的で、どこにたどり着くのか、とても楽しみである。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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