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ジャーナリズム
小笠原泰「日本は大丈夫か」

W杯日本代表の西野監督は不適切だったのか…ベルギー戦敗戦は当然の結果

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
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 選手との距離が近くて信望を得ている西野監督のようなタイプでなければ、やはり日本のチームは機能しないのかもしれない。解任されたハリルボジッチ前監督は競争とプレッシャーを通して若手を育てようとしたが、西野監督でなければ今回のW杯の結果はなかったかもしれない。

 ハリルホジッチ氏は「もし私がベンチに座っていたら、日本は2-0のリードを失うことはなかった。それは保証できる。なぜなら私は、ベルギーに3点を奪われないために、どう動けば良いかわかっているからだ」と述べたという。しかし、もし彼が監督であったなら、2点の先行はなかったと思う。西野監督は今月で退任するが、今回を見るに、やはり日本代表の監督は日本人であるほうがよいのかもしれない。実際、後任には森保氏が就任の方向だと報じられており、最終的に森保氏に決定した。

「他力」という発言

 以下、筆者の専門である組織マネジメントの観点から、今回の西野監督の言動を分析してみたい。

 試合後の西野監督の記者会見を見るに、“日本社会における日本人のマネジメント”としては問題ないと思う。いや、むしろ非常に日本的であり評価されるべきであろう。言い換えれば、この記者会見での西野監督のスタンスは、欧米のマネジメントの観点からみるとリーダーのプロトコル(基準)から相当外れているといえよう。

 欧米のリーダーのプロトコルを前提にすれば、勝ったチームの監督として、会見の出だしから「私はとても悩み苦渋の選択をしました」と言わんばかりの焦燥した顔をするべきではない。目標に到達するために自分が正しいと判断し一次リーグを通過したのであるから、すっきりした顔で自信をもって「自分の判断は正しかった」と言うべきである。この意味で、キャプテンとしての長谷部誠選手のドライな態度は、さすがにドイツで長いこと一線でプレーしている選手という印象である。

 また、「他力」(コロンビアがセネガルに1‐0で勝つ)という言葉を多用しすぎである。状況を好転させるための自らの力を放棄する「他力」という発言は、コロンビア勝利の確率のほうが、日本がポーランドと同点になる確率よりも高いとはいえ、リーダーの使うべき言葉ではない。突き詰めると、「他力」という言葉を使うことによって、自分の選手が同点にする力がない、つまり信用していないことを認めてしまっているといえる。これもリーダーとしてはいただけない。

 また、西野監督は今回のケースはプランにないと言っていたが、リーダーとは常に最悪を想定するのが任務であるし、たとえ想定外であったとしても決してプランにないとは言ってはいけない。

 リーダーであれば、「すべて自分の責任であり、悩んだのではなく確率的に考えてもっとも正しい判断をしただけである」と自信を持って言い、決して選手に謝ったりはしないだろう。実際、判断は正しく、一次リーグを通過したのだから、爽やかな顔をして「リスクの低いほうの選択肢を選んだ」と言うべきなのである。

 しかし、日本では西野監督の日本的なウエットな組織マネジメントが高く評価されているのを見るに、上記のようなドライな対応をしていれば、日本での評判はすこぶる悪かったであろう。血の通わない冷徹な監督という非難が聞こえてきそうである。西野監督はそれを理解しているので日本向けのパフォーマンスをしたのであろう。

 違った見方をすれば、W杯出場国のほとんどの監督は、グローバルなマーケットにおける自分の監督としての価値評価がかかっているが、西野監督にとっては無関係なので、このような対応が可能だったのかもしれない。しかし、これではグローバル化する世界で日本人がリーダーになるのは程遠いといえるし、日本的組織に優秀な外国人をリーダーとして迎えても機能しないであろう。

ラグビー日本代表の例

 筆者は今回の西野監督の言動を非難するものではなく、グローバルなプロトコルとの乖離を指摘しただけである。今後、日本のサッカーが強くなるには、欧州のレベルの高いリーグのチームでレギュラーをはれる選手が増えなくてはならない。その強豪チームを見れば、人種も多様であり、完全な多国籍軍団である。そのため、日本では監督よりも選手の姿勢が先に変わるのであろう。エディ・ジョーンズを監督に迎えて実力を上げたラグビー日本代表を見ればわかるが、日本だから組織は変わらないというわけではない。

 最後になるが、セネガルがFIFAにフェアプレイポイントでの決勝トーナメント進出決定に抗議したが、ドイツ人が語り継ぐ「ヒホンの恥」(注1)のように、これでルール改正が行われると、日本の汚名は「ボルゴグラードの恥」としてW杯史上語り継がれることになる。そうならないことを祈りたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

※注1:ヒホンの恥
W杯1982年大会の一次リーグ第3戦で西ドイツとオーストリアが対戦し1-0となり、両国の一次リーグ通過が決定した時点で双方がボールをまわして無気力試合をしたといわれ、その後一次リーグの第3戦は同時間開催とするようにルール変更された。

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