宇多田ヒカルの歌詞の世界観は、いくつかの人生の岐路を経験してきた30代、40代以上に特に響き、それが大ヒットの要因になっているというわけか。今回話題となっている『First Love』との関連性にも、宇多田ヒカルの哲学が関係しているのだと岡村氏は続ける。
 
「前作の『Fantome』(編注:正式表記はフランス語表記)は亡くなったお母様に捧げられた作品で、『花束を君に』や『忘却』といった、“別れ”などの重いテーマを扱った曲が多いアルバムでした。それを踏まえて考えると、今回の『初恋』は、別れの後の新しいスタートを意味しているのではないでしょうか。

 ただそれは、あくまで終わりの後には始まりがある、という感覚でつけたタイトルであり、『First Love』を意識したというわけではないと思います。むしろ、そういうことを意識せずにタイトルを付けた結果、『First Love』と同じ意味の言葉となった。そのことが、奇しくも彼女の哲学を表現しているように感じられます」(同)

 彼女をデビュー当時から知る30代、40代以上のファンたちのなかには、原点回帰的な意味で『初恋』と冠せられたと考えていた方もいるだろう。ただ、岡村氏の見解によると、その予想もあながち間違ってはいないかもしれないが、それ以上に宇多田ヒカルの新たな境地に達したアルバムであったことが、ジワジワと人気が拡大している理由なのかもしれない。

日本語詞でも海外で支持されるのは、曲の作り方が世界基準だから

 宇多田ヒカルの持つ深い哲学性が歌詞に現れ、我々の共感を呼んでいるということだが、彼女の曲は日本語の通じない海外でも大きく支持されている。海外でウケる要素は一体何だろうか。

「いわゆるJ-POPというものは世界的に見ても独自性の強い音楽で、楽曲づくりにおいてもJ-POP特有の方法論が用いられています。しかし、宇多田さんの楽曲というのは、メロディへの言葉の乗せ方からアレンジの方法まで、極めて自然に世界基準でつくられているんです。1stシングル『Automatic』がヒットした当時、“カラオケで歌いにくい”“言葉の乗せ方が独特”などと言われていたことを覚えている方もいるのではないでしょうか。それは宇多田さんの楽曲がJ-POPではなく、最初から世界基準の方法論でつくられていたからこそ、そのように感じられていたのかと考えます」

 洋楽的な楽曲のつくり方をしているからこそ、たとえ日本語で歌っていても海外で受け入れられるということか。さらに岡村氏は「宇多田さんは音楽の最先端をキャッチする嗅覚が非常に鋭い人です」と続ける。

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