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江川紹子の「事件ウオッチ」第109回

【栃木女児殺害】無期懲役を維持した高裁による、不可解でアンフェアな有罪認定

文=江川紹子/ジャーナリスト
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詳細は虚偽でも、殺害の自白だけは真実?

 ところが、例の母親への手紙で犯人性を確信してしまった東京高裁には、自白全体の信用性を疑うという選択肢はなかったらしい。なんとも大胆に、次のような認定をするのである。

「自らが本件殺人の犯人であることを認める部分については、他の証拠によって客観的に裏付けられ、あるいは支えられており、信用性を認めることができる」

 これにも疑問を感じる。あの手紙を裁判所は、犯行を認めた一種の「自白」として受け止めている。捜査機関による調書などに比べて任意性は格段に高いとはいえるだろうが、それでも手紙という形の自白供述によって自白調書の一部を裏付けるやり方には、客観性は感じられない。結局のところ高裁は、複数の自白の中から、有罪認定にとって都合のいい部分をつまみ食いしているにすぎないのではないか。

 被告人が、自分が犯人であると認めながら、「殺害の経過、殺害行為の態様、場所、時間等に関する供述部分」について虚偽供述をしたというなら、嘘をついた理由を示す必要があるだろう。それについて、高裁は以下のような「一般論」で説明した。

「一般的に、自己が犯人であることを認める被疑者であっても、その犯行の動機、経緯、態様等について、真実をありのままに供述するとは限らない。(中略)捜査官の言動等から、証拠がそろっていて有罪は免れないと考え、そうである以上、情状を良くするために犯行を認め、犯行の動機や態様について、実際の犯行よりも犯情の軽い虚偽の事実を供述することは珍しいことではない。重い処罰を免れたいのは人間の心情として自然なことであり、特に、事実をありのままに供述すれば、相当に重い刑に処せられるおそれがあり、しかも、犯人性は別として、実際の犯行状況を示す証拠を捜査機関が収集している様子がうかがえなければ、上記のような虚偽供述を行う動機は一層強くなるものと考えられる」

 そして勝又被告については、「自白供述が、反省や悔悟により行われたものとは極められない」として、自らの罪を軽くするために「殺害の経緯、場所等について虚構を作出した疑いは否定できない」とした。

 上記の一般論に異議はない。しかし、一般論が常に誰にでも当てはまるというものでもない。勝又被告に当てはまるというならば、それなりの根拠が必要だ。単に「反省してないから」で済ませてよいとは思えない。

 それに、女の子を拉致し、監禁し、性的な陵辱をした挙げ句、口封じのために刃物で何回も刺して殺し、遺体を山中に放置したという自白内容は、十分すぎるほど残虐非道である。それを事実と認定した一審では、検察の求刑通り無期懲役判決が出た。

 捜査機関が罪を裏付ける証拠を収集していないことに乗じて、自らの罪を軽くしようとするなら、DNAなど客観的な裏付けのないわいせつ行為について認めない、となるのではないのか。

 ところが勝又被告は、弁護人によれば、かなりひどい性的行為まで“自白”しているという。一時は、わいせつ行為を認めたまま、殺人について否認する時期もあった。こうした態度は、捜査機関が証拠を押さえている部分は認めるが、証拠が収集されていない部分は嘘をつく、という「一般論」にはそぐわない。

 それにもかかわらず、東京高裁は一般論で押し通し、殺害の自白は真実だが、その具体的な内容はすべて虚偽とした。これは、短慮のそしりをまぬがれないのではないか。

 ただ、裁判所もそれですぐに有罪判決が書けるわけではない。検察側の起訴状が、遺体の見つかった山中が殺害場所としてあるからだ。

 刑事裁判は、検察が起訴状に記載した事実を被告人が犯したかどうかを審理する手続きだ。そこに書かれている事実を、裁判所が勝手に書き換えて判断してはいけない。

 すると高裁は控訴審の終盤で、起訴事実の殺害日時と場所を拡張する「訴因変更」を行うよう、検察側に強く促した。検察は、初めは渋っていたようだが最終的に応じ、「2005年12月2日午前4時頃」としていた殺害日時を、女の子が拉致されたとみられる時刻を起点に「2005年12月1日午後2時38分頃から翌日午前4時頃までの間」に広げた。殺害場所に至っては、「栃木県内、茨城県内又はそれらの周辺」と、極めて広いエリアに拡張された。

 高裁判決は、訴因変更後の日時と場所で、有罪判決を書いた。この経緯を見れば、裁判所主導の有罪判決といっていいだろう。しかし、ここまで日時・場所を拡張し、曖昧にされたら、弁護側は防御が困難になり、フェアな手続きとは言い難いのではないか。

 被告・弁護側は、即日上告した。特に自白の信用性について、最高裁がどのように判断するのか、注目したい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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