石徹白未亜「ネット依存社会の実態」

ウーバー、ネット広告詐欺をめぐり広告代理店を提訴

ウーバー・テクノロジーズ本社(写真:AP/アフロ)

 不正にアップロードされた漫画が読み放題――違法サイト「漫画村」をめぐる問題では、そのモラルなき運営体制が問われたのと同時に「ネット広告のあり方」についても一石が投じられた。

「漫画村」には多数の企業広告が掲載されており、それらが「不正を行うための資金源」として糾弾されたのだ。多くのウェブサイトやアプリは無料で利用できるが、それらのサービスは広告主の広告費によってまかなわれていることが多い。無料でネット上のサービスを楽しめる背景には、複雑化するネット広告の仕組みがある。

 8月18日付記事『ネット広告の闇…アプリに蔓延するアドフラウド(広告詐欺)の実態』に続き、adjust株式会社の日本チームカントリーマネージャー・佐々直紀氏に話を聞いた。

アプリで行われる広告詐欺の手口とは

――前回、「広告で悪事を働く手法は、ウェブサイトからアプリに移りつつある」とうかがいました。アプリでの「アドフラウド」(広告詐欺)は、どのように行われているのでしょうか。

佐々直紀氏(以下、佐々) 不正の手口のひとつに「クリックインジェクション」というものがあります。ここでターゲットにされるのは、「何も広告を踏まずに自分の意志で『Google Play』や『App Store』に行き、アプリをインストールしたユーザー(=オーガニックユーザー)」です。

 オーガニックユーザーは広告を経由していないので、本来なら広告主(アプリ事業者)は広告を出している媒体(メディアやアドネットワーク)に成功報酬を払う必要はありません。しかし、このオーガニックユーザーが広告を踏んだかのように見せかけて広告費をだまし取るというのが、クリックインジェクションです。

 アプリ事業者は、さまざまなメディアやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、アドネットワークに広告を出稿し、「Google Play」や「App Store」 に誘導してインストールを促します。アプリがリリースされた直後は数億円、大きいタイトルの場合は数十億円の広告費が投入されることも珍しくありません。しかし、前回も申し上げた通り、当社の不正検知ツール「Adjust」では「全体のインストールの約10%は不正なものであった」という結果が出ています。

――数十億円の10%といえば、相当な金額ですよね。このような不正を行うのは、どんな人や組織なのでしょうか。

佐々 2つのケースが考えられます。まず「広告費用をかすめ取りたい」「収益がほしい」人や組織ですね。前回お話しした通り、アドネットワークの仕組みはとても複雑です。網のような構造の先に、このような悪質な業者がいるケースもあります。

 もうひとつは、広告の表示先であるアドネットワークやメディアが「自分たちは広告の効果が高いですよ」と見せかけるために、アドフラウドを使って“盛る”ケースです。

――いわゆる自作自演ですね。前者はもちろん、後者も広告主にとっては無意味なインストールであり、腹立たしいですよね。メディアやアドネットワークの自作自演が発覚した場合は、「もう、そちらに広告は出さない」となるのでしょうか。

佐々 そうなることもありますね。ただ、アドネットワークの構造は複雑で、ひとつのアドネットワークが複数のメディアで構成されています。そして、そのアドネットワークに所属しているすべてのメディアが「クロ」かどうかはわかりません。

 そのため、あるアドネットワークがA~Zのメディアを持っていたら、Adjustで取得したログを基に「そのなかで不正の疑いが強いA、B、Cのメディアにはもう広告を出さない」という手段が検討されることが多いです。すべてを削るのではなく、良い配信先はできるだけ残すことが重要です。

広告代理店も動き出した、アドフラウド対策

――アドフラウドはネット広告全般の信用を揺るがす問題ですね。

佐々 海外では、アドフラウドの問題で、ライドシェア最大手の米ウーバー・テクノロジーズが広告代理店に対して提訴したケースがあります。

 日本国内でも、アドフラウドの存在を知った広告主が当社のツールを使い不正の証跡を調べ、不正なインストールに関しては代理店やアドネットワークに返金の請求を行う動きが出てきています。訴訟までには至らず、まだビジネス上の交渉の範囲ですが。

 ちなみに、当社は「これまで、どのアドネットワークやメディアで不正が多く出たか」などの情報は、クライアントであるアプリ事業者さんには一切お伝えしていないんです。

――アプリ事業者とすれば知りたい情報のはずですが、なぜでしょうか。

佐々 当社が提供しているのが計測ツールである以上、中立的な立場を厳守する必要があるからです。そのため、計測した事実のみをそのままお渡ししています。それを見れば、結局はどこが不正をしたのかはわかりますから。

 さらに、過去の計測から不正の疑いが強いアドネットワークやメディアにおいても、キャンペーンによってはまったく不正が出ないケースもあるんです。そのため、「あのアドネットワークやメディアは不正が多い」などとは一概に言えないのです。

 ただ、当社のツールはアプリ事業者さんだけでなく広告代理店さんにもご利用いただいています。広告代理店さんが当社のツールを活用し、広告主向けに「このアドネットワークやメディアは不正が多いので利用しないほうがいい」とコンサルティングを行う動きはあるようですね。

――「このメディアは不正が多い」と広告代理店と広告主が話しているというのも、かなりシュールな光景ですね。ありがとうございました。

 次回も、アドフラウドのさらに具体的な手口やゲームアプリにおける「不正課金」の問題について、佐々氏の話をお伝えする。
(構成=石徹白未亜/ライター)

石徹白未亜/ライター

ライター。得意分野はネット依存・同人文化(二次創作)・ファッション。ネット依存では自身の体験をもとに書籍『節ネット、はじめました』(CCCメディアハウス)を執筆、NHK『ハートネットTV』、フジテレビ『バイキング』、朝日新聞、週刊文春等メディア出演多数。個人に向けたスタイリストとしても活動しており、著書に男性スーツ本『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)。ユニ・チャーム株式会社でのスーツ着こなしセミナーなど、ファッション研修も多くの実績あり。おうち大好きインドア派。同人誌と串揚げとしめさばとビールで生きてます。
●「主なプロデュース作品
『何になりたいかわからないけど就活を始めるあなたへ まず自己分析をやめるとうまくいく』辻井啓作(高陵社書店)
『自分のイヤなところは直る! 』牧野秀美(東邦出版)
『英語がサクッと口から出る 英語の「筋トレ」4センテンス繰り返しCDドリル 初級編 』渡部泰子(主婦の友社)

Twitter:@zPvDKtu9XhnyIvl

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