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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

働き方改革が不動産会社を滅ぼす?都心の巨大なビルもタワマンも「無用の長物」に?

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役

 いっぽうでこの豪華なコワーキング施設は、会員施設であるから、今後その立地は立川や武蔵小杉、船橋、大宮などといった多くのビジネスパーソンが暮らす街中に設置されるようになるだろう。コワーキング施設では他社の社員とも交流ができるし、完璧にそろえられた情報機器やサービスを存分に使うことで、会社とは常につながっていることができる。多くの社員が通勤をせずにこうした施設で働くのが当たり前となれば、何も混雑する通勤電車に乗って都心の会社に出向く必要もないということになるだろう。

 そう考えるとデベロッパーにとっては「働き方改革」は夜も眠れぬ脅威に化けるのだ。都心に誰も通ってこなくなる。つまり都心に用意した巨大なオフィススペースが必要なくなるということを意味するのだ。使い道がなくなった航空母艦ビルが巨大なダンスパーティー会場になってしまうかもしれないのだ。

 都心居住の掛け声のもとに、都心タワーマンションを販売してきたのに、都心のお高いマンションなどに人々が見向きもせずに、郊外の安い土地の上に自分の好きな家を建て始めるようになれば、もともとそんなに便利な土地でもなく、住環境も「いまいち」だった湾岸タワーマンションなど誰も見向きもしなくなるかもしれない。

鉄道会社にとってはコペルニクス的大転換

 これまで郊外から都心部に毎朝毎夕人々を運んでいた鉄道会社にとっては、コペルニクス的大転換となる。彼らが電車に乗らなくなってしまえば、通勤定期券という彼らの生命線である収入がなくなることを意味する。多額の費用をかけて都心まで複々線を開通させた小田急電鉄などにとっては信じがたい事態ともいえよう。

 都心に通わなければ、これまで通勤に使っていた莫大な時間から多くの勤労者が解放される。余った時間を自分の暮らす街で過ごすようになると、これまでの会社に「通勤」するという視点からだけで「駅から徒歩何分」と利便性だけで選んでいた住宅の選択概念も大きく変化するかもしれない。

 郊外の街が復活する可能性もある。子供を自然環境の豊かな郊外で育てたいというニーズはこうした時代でも根強いものがある。通勤がなくなれば、生活コストが高く、自然環境が乏しい都心に無理して家を求める必要はなく、安いコストでよい環境を買う人々が多数出てきてもおかしくはない。

「通勤」という概念がなくなる日

 不動産に対する価値観に、この働き方改革は大きな影響を与える可能性が高いのだ。そういえば、今や世界を代表する企業となった、グーグルやアマゾン、フェイスブックなどのガリバーカンパニーは、その多くがニューヨークのマンハッタンなどに本社を構えたりはしていない。

 ひょっとすると平成の次の年号の時代に活躍する多くの会社が、環境の良い、人々が本当に働く幸せを感じ取ることができる豊かな就業環境が実現できる場所に社屋を構えることになるかもしれない。そしてその社屋に通うのは「通勤」という概念がなくなった社員たちであり、ほとんどが会社とは遠く離れた、それぞれが「私の好きな街」に暮らしていることになるのではないだろうか。

 そのとき、平成まで大手を振っていた大手デベロッパーや鉄道会社は生き残っているのだろうか。「働き方改革、恐るべし」である。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

●牧野知弘(まきの・ともひろ)
オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。

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