『スター・ウォーズ』や『インディー・ジョーンズ』の音楽が観客の心を震えさせる秘密
ハリウッド映画の『スター・ウォーズ』『インディー・ジョーンズ』(いずれもウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズほか)の名をご存じない方は、ほとんどいないのではないでしょうか。ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーク両監督のスペクタクルな映画は、実際には起こり得ない情景を、あたかも本当に起こったかのように見せてくれます。
例えば、宇宙空間での戦闘場面は『スター・ウォーズ』のクライマックスですが、実際には、真空の宇宙で敵を打ち落としても爆発音がするわけはありません。その非現実を現実化しているのが音楽です。そして、この2人の巨匠監督がずっと選び続けた作曲家は、ジョン・ウィリアムズです。彼は1932年生まれなので現在86歳ですが、まだまだ若々しく活動をしているアメリカ映画音楽界の“モンスター”です。
しかし、いつも派手な迫力満点の映画音楽ばかりつくっているわけではなく、1993年にアカデミー賞とグラミー賞を総なめにしたスピルバーク監督の『シンドラーのリスト』では、実話に基づいた第二次世界大戦中のナチス政権下でのユダヤ人の苦難と悲しみを、見事に音楽で表現しました。なかでも、ユダヤ系の世界的ソリスト、イツァーク・パールマンのヴァイオリン・ソロは、モーツァルトやチャイコフスキーに匹敵するような美しさで、映画の画像を見ながら世界中の観衆は涙を流したのでした。
ジョン・ウィリアムズは、40年前に映画『ジョーズ』(ユニバーサル・ピクチャーズ)で初めてアカデミー賞、グラミー賞を受賞し、スピルバーク監督と共に一挙にスターダムに上がりました。夏のビーチで、子供たちは大騒ぎで海に飛び込んでいく。そこに、強いリズムで作曲された有名な『ジョーズ』のテーマ音楽が始まり、観客の不安感を煽ります。スピルバーク監督の目まぐるしいカット割りで緊張感を高めていった手法も見事ですが、ここでは音楽が、まだ見えない人食いザメが近づいてくるのを的確に表現しているのです。
スクリーン上の子供たちは、サメが迫っている危険に気づくことなく無邪気に水遊びを続けている。つまりその不安感は、スクリーンの中ではなく、映画館の客席にいる観客に対して向けられているのです。それを生み出したスピルバーク監督の天才的アイデアも見事ですが、そこにはジョン・ウィリアムズの音楽が不可欠でした。『ジョーズ』は、聴覚作用による音楽が、視覚的な疑似体験を生み出す作用があることを証明しています。