また、結婚後も保育士には厳しい試練が待ち受ける。主戦力を担う20~30代の女性保育士は、いわゆる出産適齢期でもある。しかし、多くの保育所では保育士が2人以上同時に産休・育休を取得されてしまうと、たちまち人手が不足する。そのため、妊娠・出産は順番性という暗黙のルールが決められ、先輩からその順番が回っている。
「この妊娠・出産の順番ルールを破ることはご法度とされている。少しでも妊娠しにくかったりすると、たちまち仲間から爪はじきにされるところもある」(保育業界関係者)
当然ながら、こんな労働環境下で働きたいと考える人は少ない。保育士が慢性的な不足に陥るのは当然の話なのだ。
自治体は、こうした保育士不足を解消するべく多額の予算を計上。保育士の給料を上げたり、家賃補助をしたりと大胆な処遇改善を進めてきた。また、保育士が子供を預けて職場復帰する場合は、優先的に保育所に入園できるようなシステムも導入した。
「いまや東京23区のすべての自治体が、あの手この手で保育士の確保に努めている」(前出・東京23区職員)
待機児童問題の解消を最重要課題に据えていた千代田区では、新卒保育士に奨学金の返済支援まで実施。金銭面では、保育士の処遇改善は少しずつ進められてきた。しかし、保育士の絶対数がいきなり増えることあり得ない。そこで自治体は、過去に保育士として勤めていたものの、今は保育士として勤務していない潜在保育士に注目。保育士資格を有する人が、出産後に職場復帰せずにそのままスーパーやコンビニエンスストアのパートに従事していることも珍しくない。せっかくの国家資格である保育士が活用されない状況は行政にとっても損失でしかない。潜在保育士に職場復帰を促すことで、行政は保育士不足の解消に努めようとした。
保育士不足により、自治体間の保育士の確保競争が激化。それは、当然ながら保育士にかかる人件費の高騰を招くことにもなった。
「もともと保育士の給料は、ほかの職種と比べても低すぎました。勤続20年でも手取り10万円台ということは珍しくありません。そのため、高騰したといっても人並みにはまだ届かないのが現状です」(前出・保育業界関係者)