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成馬零一「ドラマ探訪記」

『この世界の片隅に』あえて現代パート挿入で描きたいことの輪郭が見えてきた

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日曜劇場『この世界の片隅に』|TBSテレビ」より
 TBS系「日曜劇場」(日曜21時)で放送されている『この世界の片隅に』は、終戦間近の広島を舞台とした連続ドラマだ。


 昭和19年。絵を描くのが好きな、ぼーっとした少女・浦野すず(松本穂香)は、呉市で暮らす北條周作(松坂桃李)の下に嫁入りする。物語は、終戦へと向かっていく戦時下の日本で暮らす北條家の人々の姿を追っていく。食料が配給制となり物資が不足するなか、すずたちはさまざまな工夫をしながら日々を過ごしている。その姿は今の私たちと大きく変わるものではなく、色恋の話で盛り上がることもある。

 幼少期に一度会っただけの男性(しかも、すずは覚えていない)と夫婦として暮らすなかで夫のことを少しずつ知っていくすずの姿は、恋愛を通してお互いを知り、やがて結婚するというプロセスが当たり前となっている現代の私たちからすると想像できないことだ。しかし、相手を知る順番が違うだけで、お互いに夫婦になってから恋愛感情のようなものが芽生えていくすずと周作の関係は見ていて心温まるものがあり、「こういう関係も悪くない」と思えてくる。

朝ドラでは描きづらい「色気」が充満


 原作は、こうの史代が「漫画アクション」(双葉社)で連載していた同名漫画。2016年に片渕須直監督によるアニメ映画が公開され、戦時下の広島の街並みや軍艦の精密な描写が話題となった。丁寧な取材を基に戦時下の生活を細かく描いた同作は、アニメだからこそ可能なリアルな作品として高く評価され、今も日本各地で上映が続くロングラン作品となっている。

 原作漫画とアニメ映画、特に後者の圧倒的な評価があるなか、後発となった連続ドラマ版『この世界の片隅に』は逆風のなかでのスタートだったといえる。特に、アニメ映画版ですずの声を担当したのん(能年玲奈)に「実写版でもすずを演じてほしい」という期待が高かったこともあり、主演がのんでないことに対する落胆の声も多かった。

 だが、3000人のオーディションで選ばれた松本穂香は、ぼーっとしたなかにも女らしさを見せるすずを好演。放送が始まると、ドラマ版を評価する声も増えていった。

 連続ドラマ版では、アニメ映画のような実在感のある風景や兵器の描写は実写ドラマのCGでは限界があるため深追いはせず、会話劇を通して人間関係を丁寧に見せていく方向に特化している。

 おもしろいのは、キャスティングだ。主演の松本穂香はもちろんのこと、松坂桃李、尾野真千子、土村芳、伊藤沙莉、榮倉奈々、宮本信子といった近年のNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)に出演した俳優陣が勢揃いしている。戦時中の日本で生きる女性が主人公ということもあってか、朝ドラ以上に朝ドラ的な作品となっている。

 プロデューサーの佐野亜裕美は「夜の朝ドラ」のような作品になればいいと語っており、原作漫画が朝ドラに近いと感じたので、過去に『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』といった朝ドラを手がけてきた岡田惠和に脚本を依頼したという。

 なるほど、確かにキャストと脚本家を朝ドラ経験者で揃えた本作は朝ドラ的な作品である。だが、一方で朝ドラではなかなか描けない色気のようなものが本作には充満している。

 その筆頭が、二階堂ふみが演じる遊女の白木リンの存在だろう。すずは、リンがかつて夫の周作となんらかの関係にあったことを知って、嫉妬と同時に劣等感を覚える。また、幼なじみで初恋の人だった水原哲(村上虹郎)が戦地に向かう前に北條家を訪ねてきた際に、すずは周作から、水原と一晩一緒にいるように言われる。あわや男と女の関係になりそうになる2人だが、そこで思いとどまったすずが最初に思うのは、周作に対する憤りだった。第1話では、すずと周作の初夜に至る場面が丁寧に描かれていたが、こういう男と女のやりとりの艶っぽさは本作最大の魅力だ。

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