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片山修「ずだぶくろ経営論」

徹底した技術者優遇と海外展開…40人でも世界トップシェア、あの中小企業の秘密

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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「技術開発者は、つねにたくさん確保してきました。技術者は現在、40人の社員のなかで28人。しかも、うち2割にあたる6人ほどが開発専門です。この規模の会社で、技術陣の2割を開発に割くのは、結構、大変なんですよ。でも、わが社が今日あるのは、いつも新しい開発に取り組んできたからですね」(中村氏)

 つまり、ナプソンの強みは確かな技術力であり、開発力だ。求められる技術を顧客に提供し続けることができるからこそ、顧客から必要とされ、結果的に生き残ることができたといえる。しかも、ナプソンは技術者らを縛り過ぎない方針を貫いている。信頼して、できるだけ任せているのだ。

「技術者と一言でいっても、機械系、電機系、ソフトウェア系、測定系、製造系など、それぞれ持ち場があって、それぞれのペースで仕事ができるように気を使っています。最終的には、結果に現れるわけですから、ある程度の管理をしつつ、普段は“自分の裁量で働きなさい”と言っているんですね」(中村氏)

 信頼して任せられるからこそ、技術者らは信頼に応えようと努力する。経営陣と技術者らとの信頼関係は、従業員の高いモチベーションにつながるのだ。

「商品は技術が基本です。製品のクオリティが高くなければ、企業は生き残れません。また、かりに装置を納めても、メンテナンスを含めて技術が伴わなければ、次回は買ってもらえないわけです。つまり、リピートを獲得するためにも、メンテナンス技術ももっていないとダメです。

 さらにいえば、製品を買ってもらう段階にたどり着くまでには、信頼関係を含めて、マーケティングも必須です。クオリティで勝っていても、コストの問題もあって買ってもらえないときだってありますからね。マーケティングは重要なんです」(中村氏)

 確かな技術と、その技術を顧客につなげるマーケティング力。その両方が備わっているからこそ、ナプソンは世界市場において比類ない競争力を保持しているのだ。

商社に頼らない海外展開戦略

 ナプソンは、1992年以降現在にいたるまで黒字を続けている。その秘密は人材育成のほか、もう一点ある。国内市場だけでは生き延びていけないと考えたナプソンは、経営の安定を求めて海外に目を向けたからである。

 海外展開の推進役を務めたのが、当時、半導体関連企業でマーケティングを担当していた中村氏だった。中村氏がナプソンに入社したのは、88年。当時、社員は7~8人にすぎず、営業を専門に手掛ける社員は、彼を除いて一人もいなかった。中村氏は、ゼロから海外営業活動を開始した。

「英語は多少できたので、海外をやらせようということで声をかけられたんだと思います。学生時代にヨーロッパで8カ月くらいバックパッカーをしていたことがあって、海外には抵抗がなかった。狭い業界ですから、ナプソンの名前は知っていました。営業の経験はなかったんですが、会社は家から比較的近いし、やってみようかなと思って決めました」(中村氏)

 人的資源の乏しい中小企業は普通、海外展開にあたって、専門商社を経由して商品を売り込む。しかし、彼は当初から商社を通すことは念頭になかった。海外代理店を使った自前の販売網の構築に乗り出したのだ。零細企業においては大胆な戦略といえるが、彼は次のように言うのだ。

「商社の人は、『半導体メーカーをたくさん知っていますから紹介します』と言ってきますが、うちの製品のようなものは、商社を通したら売れません。むしろ、少量の注文は受けてくれなかったり、ふっかけられたりしかねないですね」(中村氏)

 結果的に、中村氏の判断は正しかった。彼に言わせると、半導体業界は「国境の概念があまりない」ため、海外展開はそれほど難しくなかったという。実際、展示会に出品すると、すぐに韓国企業から声がかかった。

「韓国企業は日本企業をベンチマークしていますから、日本の大手メーカーに採用されているナプソンの製品に興味があるんです。一社が買ってくれれば、競合する他の韓国企業も興味を持ってくれます」(中村氏)

 例えば、韓国企業に対抗しようと、日本の企業が台湾企業に技術供与して生産委託を始めた結果、2000年前後には台湾企業が、近年は中国企業が同じく半導体や液晶パネルに巨額投資を始め、ナプソンは、それらの企業にも日本の企業が採用している製品を売り込むことができているのだ。

「リーマンショック後、売上高の海外比率は伸び、今は6割から7割が海外です。国内電機メーカーの受注は減少していますが、新素材の分野は増えている。素材は、いまだに世界でも日本企業が強いですね」(中村氏)

 ナプソンは現在、韓国支社のほか、台湾、中国、アメリカ、シンガポール、インド、ロシア、英、仏、独など、世界中に代理店を持ち、独自の販売網を築いて高いシェアを誇る。

 巨大で華やかな半導体産業の舞台裏では、このように地道でしたたかな中小企業が活躍しているのである。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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