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江川紹子の「事件ウオッチ」第111回

【警察庁長官狙撃事件】捜査はなぜ失敗したのかーー反省なき公安警察への危惧

文=江川紹子/ジャーナリスト

 原氏は、同書で実名は書いていないが、この時の警視総監は、『Nスペ』で無反省な発言をしていた米村氏にほかならない。せっかく部下が捜査結果を報告に来たのに、自分の見立てに執着し、頭ごなしに否定した彼は、ブレーキが壊れているだけでなく、明後日の方向にアクセルを踏み続け、事件を迷宮入りさせた“戦犯”のひとりといえるだろう。

 ちなみに米村氏は今、2020年に本番を迎える東京オリンピック・パラリンピック組織委員会のチーフ・セキュリティ・オフィサーを務めている。こういう人に任せて、オリパラの安全対策は、本当に大丈夫なのだろうか。

反省なき警察に潜む危険

 挙げ句の果てに、事件は2010年に時効を迎えた。被疑者の特定すらできなかったにもかかわらず、青木五郎・警視庁公安部長(当時)が記者会見を行い、事件はオウムによるテロと断定。しかも、その発表文を警視庁のホームページで公表した。これに対し、オウムの後継団体アレフが裁判を起こし、(当然のことながら)東京都は敗訴している。都は、税金でアレフに賠償をしなければならなくなった。

 その原因をつくったことへの反省は、まったくないようである。NHKの番組は、「中村犯行説が出回る可能性があったので、それを打ち消す必要があった」などと語る青木氏のコメントも紹介していた。

 事実を大事にせず、立ち止まって考え直すということができない捜査機関は、真犯人にたどりつけず、事件を解決できないのみならず、冤罪を生むこともある。これは表裏の関係だ。

 たとえば、大阪地検特捜部が、厚生労働省の局長だった村木厚子さんを冤罪に巻き込み、主任検事が証拠の改ざんまで行った事件。最高検が事件を検証し、再発防止策を発表する際、伊藤鉄男・最高検次長検事(当時)は、重要なポイントについてこう述べている。

「捜査段階において、当初の見立てに固執することなく、証拠に基づき、その見立てを変更し、あるいは、引き返す勇気を持って、捜査から撤退すること、さらに、公判段階においても、最終的に有罪判決を得ることが著しく困難であると認められる場合等には、引き返す勇気を持って、公訴取消しを検討することなど、適切な検察権行使の在り方を周知徹底することであります」

 検察が、当初の見立てに固執し、引き返す勇気もないままに、村木さんを有罪にするために突き進んだことへの反省の弁だった。

 この反省が、今の検察に十分生かされているかどうかは、大いに議論が分かれるところだ。それでも、当時の検察はこういう反省をし、それに基づいていくつかの対策をとった。

 それに比べて、警察はどうだろう。何の反省も、総括もしていない。それどころか、当時の幹部たちが、自分たちの見立てが今も正しかったと、公共放送の番組で述べて恥じるところがないのだ。

 これでは、今後もその体質は変わらないだろう。同じ過ちをくり返す可能性もある。だが、それでは困る。今からであっても、この事件を未解決にした原因を検証する動きが出てきてもらいたいのだが……。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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