南海トラフ地震が首都直下地震を誘発する可能性も…大地震は連続発生しやすい?

北海道胆振東部地震により厚真町で発生した土砂崩れの様子(写真:読売新聞/アフロ)

 9月6日に発生した北海道胆振東部地震では大規模な土砂崩れや液状化現象が発生し、死者は40人を超える事態となった。震源地付近には活断層の「石狩低地東縁断層帯」が南北に伸びており、東北大学災害科学国際研究所の遠田晋次教授は「震源の浅い余震が活断層を刺激している可能性もあり、今後も注意が必要」と指摘する。

 遠田教授によると、「地震活動は連鎖することもあり、熊本地震のように大きな地震が次々に発生するパターンもある」といい、南海トラフ巨大地震首都直下地震が連続発生する可能性すらあるという。最悪のシナリオともいえる大地震の連鎖や北海道胆振東部地震の分析について、遠田教授に聞いた。

軟弱地盤の札幌市清田区は液状化

――今回の地震をどのように分析しますか。

遠田晋次氏(以下、遠田) すでにいろいろと報じられていますが、今回の地震は片方の岩盤がもう片方に乗り上げる「逆断層型」と呼ばれるものです。震源付近には東西方向に圧縮される力が働き、断層が突然ずれ動き、直上の厚真町で震度7を記録する猛烈な揺れになりました。内陸型地震(直下型地震)の一種です。

 ただ、一般的な内陸型地震と異なるのは、震源が37キロと例外的に深いことです(一般的な震源は15キロよりも浅い)。そのため、今回の地震では地表に断層が出現しませんでしたし、地表での地面の動きもわずかでした。また、震源地の西約10キロには主要活断層帯の石狩低地東縁断層帯がありますが、直接は関係していないでしょう。

 もともと、北海道の地形は東部と西部がぶつかってできたものです。それを特徴付ける地形が南北に隆起している日高山脈で、特に約1000万年前以降に急激に隆起して形成されました。また、それに伴い、石狩平野や夕張山地の境界付近に多数の断層ができました。そのうち今もっとも活発に動いているのが、石狩平野と、その東側の岩見沢丘陵、栗沢丘陵、馬追丘陵との境界付近に位置する石狩低地東縁断層帯です。最大でマグニチュード(M)7.9の大地震が発生するとみられています。

 今回の地震は、規模こそ違いますが、2015年のネパール地震の起こり方に似ています。ネパール地震は、ヒマラヤ山脈とインド亜大陸を含むインドプレートがユーラシアプレートに衝突し、沈み込んでいるところで発生しました。同様に、日高地域も千島弧から続く北海道東部のプレートと本州のプレートが衝突しています。北海道には南北方向に伸びる地質の帯があり、それらに伴って断層帯がいくつもあるのです(カーテンのシワのように地層がたわんでいます)。

 そして、恐竜が生息していた太古の昔にはプレートとプレートの間の地域は大きな海で、その後も堆積物が溜まりやすい環境が続きました。さらに、札幌の位置する石狩平野は沖積低地で地盤が軟弱です。特に、札幌市清田区は谷を埋めた人工造成地の軟弱地盤で、今回の地震では液状化が発生しました。

――すでに100回以上の余震も発生しています。

遠田 震源が10~30キロの浅い余震も増えてきています。気になるのは、断層の下端が15キロ程度の石狩低地東縁断層帯に刺激を与える可能性があることです。熊本地震のように大きな地震が連鎖的に発生する場合もあるため、注意が必要です。

崖地や急傾斜地の近傍に潜むリスク

――首都圏で大地震が発生する可能性も懸念されています。

遠田 首都圏では、いろいろなタイプの地震が発生する可能性があります。今回の37キロという震源の深さは、東京湾北部で想定されている地震と似ています。そのため、今回の地震から学んで被害想定などに役立てることが重要です。

 たとえば、震源地から距離があったにもかかわらず、札幌でも大きな被害がありました。首都圏で直下型地震が起きる場合も、典型的な直下型地震よりも被災範囲を広めに想定する必要があるでしょう。造成地の清田区では液状化が発生しましたが、東京でも同様の事態が起きる可能性があります。将来の大地震に備えて、過去の地震から十分に学んでおくことが重要です。

――今回の地震では土砂崩れが被害を拡大させました。

遠田 地震直前の降水量が多ければ、山地や崖地の斜面が崩壊する可能性が高まります。また、熊本地震でも阿蘇カルデラ内で斜面崩壊が発生しましたが、今回の地震でも、火山性の堆積物が崩壊を起こしやすいことが再認識されました。日本は火山列島ですから、このような斜面崩壊のリスクにも関心を持つべきです。

 都市部やその近傍では、道路などの社会インフラに打撃を与えて大惨事を引き起こします。比較的平地であっても油断はできません。首都圏では、人口集中のために崖や急斜面のギリギリにまで住宅を建てています。東海道新幹線の新横浜駅付近で見える風景が代表的なものです。大きな地震が発生すれば、リスクは大きいです。

南海トラフ地震が首都直下地震に連鎖も

――南海トラフ巨大地震についても、依然として警戒感が高まっています。

遠田 南海トラフ付近の巨大地震は100~200年周期で発生するといわれています。南海トラフ沿いの最後の巨大地震は1946年の昭和南海地震です。それから72年後なので、まだ余裕があると思われがちですが、実は発生間隔は一定ではなく揺らいでいます。安心はできません。

 また、昭和南海地震は南海トラフ沿いの地震にしては小さかったのですが、「前回の地震が小さければ、次の地震は早めに発生する」ともいわれています。エネルギーを大きく放出しなかったため、その後のゆがみの蓄積にかかる時間が短く、想定より早く次の南海トラフ地震が発生するというものです。そのため、南海トラフ巨大地震はとても切迫しているという見方もできます。実際に、政府の公表している確率にもこの考え方が組み込まれています。

――南海トラフ巨大地震では甚大な被害が想定されていますから、今後も注視が必要ですね。

遠田 一方、1970年代以降に東海地震を予知すべく観測体制や法体制が整えられてきました。実際、駿河湾の地下ではエネルギーが蓄積されています。南海トラフ沿いで地震が発生した場合、その影響で、駿河湾に蓄積されたエネルギーも同時に放出され、南海トラフ巨大地震の規模が大きくなる可能性もあります。

 駿河湾で大きなエネルギーが放出されたのは、1707年の宝永地震、その次は1854年の安政東海地震です。1944年の昭和東南海地震や前述の昭和南海地震でも動いていないため、相当のゆがみが蓄積されているはずです。そうなれば、東京も震度5強から6弱の揺れ(場所によってはそれ以上)に襲われることになるでしょう。

 ちなみに、安政東海地震の翌年の1855年に安政江戸地震(M7クラス)が江戸を襲っていますが、これは安政東海地震によって刺激されて発生した地震とも考えられています。ちなみに、東日本大震災の直後にも首都圏では地震活動が高まりました。

 そうした歴史的経緯に鑑みても、南海地震や東南海地震が東海地震を誘発し、その東海地震が首都直下地震へと連鎖する可能性もあるのです。つまり、連鎖的に各地で大きな地震が続く可能性があるため、十分な注意と対策が必要なのです。
(構成=長井雄一朗/ライター)

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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