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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」 

タトゥーを入れて後悔する人々…元に戻らず生活に制約、医師以外の施術は命の危険も

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
タトゥーを入れて後悔する人々…元に戻らず生活に制約、医師以外の施術は命の危険もの画像1タトゥーを除去するレーザー手術(「Getty Images」より)

 タレントのりゅうちぇるが、自身のインスタグラムで両肩にタトゥーを入れていると明かしたことがきっかけとなり、インターネット上や各メディアでタトゥーに関する議論が過熱しているが、タトゥーの是非を論じる前に認識すべきことがあるのではないだろうか。

 そもそも、現状でいえば、日本でタトゥーを人に施すことができるのは「医師」だけとされている。医師でないものがタトゥーを施した場合、医師法違反の犯罪である。たとえば、りゅうちぇるにタトゥーを施した彫り師は、医師免許を保有していない限り、犯罪を行ったことになる。

 2017年9月27日、大阪地裁は医師免許を持たず客にタトゥーを施していた彫り師に対し、医師法違反の有罪判決を下したことは記憶に新しい。タトゥーは、医師の専門知識を持たないものが施せば、皮膚障害や色素によるアレルギー反応、ウィルス感染が生じる可能性があるとの見解を示した。つまり、タトゥーを施すことは、「保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」に当たるため医学的知識と技能が必要不可欠」と考えられ、医師法が定める医療行為に当たると認めたのだ。

 司法の判断は、タトゥーは医療行為だとされた。では、医師の見解はどうだろうか。美容外科医・細井龍医師に話を聞いた。

「タトゥーを施すことは、医療行為としたほうが安全ではあると思います。まずは、何よりも感染症が懸念されます。清潔・不潔という医療常識が欠けていると、施術により皮膚感染症が起こる可能性があります。それよりも恐ろしいのは、血液媒介性感染症です。具体的にはB型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIVなどの感染症は、器具の使い回しや不十分な滅菌により感染が拡大します。医療器具は、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)やEOS(酸化エチレンガス)滅菌を行いますが、そういった十分な滅菌ができていない状態で器具を使い回すと、血液媒介性感染が蔓延します」(細井医師)

 また、皮膚炎やアレルギーの問題も指摘する。

「インクによるアナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)は、あまり聞いたことはありませんが、あり得なくはないので、もしそういったことが起きた場合、医療者でないと一命を取り留められないと思います。また、アレルギー性皮膚炎が起きる可能性もあり、医師であれば必要な処方を出し、増悪する前に加療することができます。ケロイド体質の人に対しては、もともとタトゥーを推奨しませんが、そういった知識が欠けていると問題になるケースが出てくるでしょう」(同)

 細井医師が指摘するように、タトゥーの是非を問う前に、医療行為として考えることが欠かせない。

消せないタトゥー

 タトゥーを入れる際には、誰でもなんらかの熱い思いがあり、「後悔などしない。タトゥーに偏見がある社会がおかしい」と考えていることだろう。しかし、時がたち、仮に考えが変わったとしても、皮膚は元には戻らないという事実を深く理解すべきだ。

 細井医師をはじめとして多くの美容外科医は、タトゥーを入れたことを後悔している人の現実を、たくさん目の当たりにしてきたという。

「タトゥーの除去には、Qスイッチヤグレーザー、ピコ秒発振レーザーといったレーザー照射を使用するのが一般的ですが、赤や緑のインクは落ちにくいです。また、皮膚に刻まれている墨を皮膚と一緒に削り取る『削皮』という方法や、ほかの健常な部位の皮膚をとって刺青を切除した部分に移植する『植皮』という方法もあります。しかし、いずれの方法でも、仮にタトゥーは消えても、綺麗とはいえない瘢痕(はんこん)が残ることになります」

 タトゥーは消せても、完全に以前のようには戻らない。

 10代のときに背中、胸、腕にタトゥーを入れたという30代男性Aさんに話を聞いた。

「タトゥーを入れた当時、親には隠していました。しかし、ある日、父に気づかれたんです。珍しくドライブに誘われ、普通にいろいろ話をしながらドライブをして家に帰ってきて、エンジンを止めたとき『入れ墨、入れたんか?』と聞かれ『うん』と答えたら、父が崩れるように泣いたんです。怒られると思っていたのに、『ゴメンな。自分の育て方が間違っていたのかもしれんな』って謝られました」(Aさん)

 当時は“やんちゃ”だったというAさんだが、現在は飲食店を経営し、父親との仲も良好だという。そんなAさんに、タトゥーを入れたことを後悔しているかをたずねると、こう答えた。

「“若気の至り”でしたね。20代になり社会人となり視野が広がっていくうちに、タトゥーが入っていることで生活に制約が生じる場面を何度か痛感し、タトゥーを消すためのレーザー治療も受けました。だけど本当に痛いんです。それに、やっぱり綺麗には消えません。治療は途中でやめました。今は、仕事もがんばって、周りの人は私の人となりを見て、タトゥーがあることは何も気にしないでいてくれます。ありがたいと思います。しかし、もし10代の頃に戻れるとしたら、タトゥーは入れません。タトゥーを入れることで、狭まる道があるのは確かです」(同)

 タトゥーの是非は、どれだけ論議しても答えは出ないだろう。しかし、「一度タトゥーを入れると、元には戻らない」という事実には、言葉では伝えられない深い意味があると筆者は感じる。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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