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浜田和幸「日本人のサバイバルのために」

安倍政権、中国の植民地化するカンボジアに「選挙支援8億円」…欧米が独裁化を非難

文=浜田和幸/国際政治経済学者

 また、一時期はロシアの進出が目覚ましかった。今でも、ところどころにプーチン大統領とフン・セン首相が握手しているポスターが残っている。しかし、すべて「今は昔」の話である。このわずか数年で、中国マネーによって町の様子も人々の生活も一変してしまった。

 具体的には、不動産価格は天井知らずの勢いで高騰している。かつては月の家賃が500ドルであった物件が、今では4500ドルにまで跳ね上がった。大挙して押し寄せる中国人ビジネスマンのせいである。そのせいで、地元の一般的なカンボジア人は生活が成り立たない状態に追い込まれている。地方の農村部に追いやられる層が増えており、社会の階層化が問題になりつつあるようだ。中国資本はリゾートに止まらず、都市部に高層マンションやショッピングモールを相次いで建設している。

 実は、それ以外にも中国からのカンボジアへの投資や融資は急拡大の一途となっている。2018年に入り、フン・セン首相は「新たに中国から70億ドルの投資が行われる」と発表。その内容は林業、プノンペンの新空港、病院や通信衛星事業など多岐にわたる。1600万人の人口しかいない、アジアでも最貧国と位置付けられているカンボジアにとっては、まさに「恵みの雨」といえよう。

 というのも、フン・セン政権の強権的な独裁政治は民主化を求める欧米諸国から反発を受け、経済関係は先細る一方であった。そこに救世主の如く登場したのが習近平政権なのである。首都のプノンペンとカジノシティであるシアヌークビルを結ぶ高速道路の建設に、中国は20億ドルを投入する力の入れようである。

 これもひとえに、南シナ海問題で周辺のアジア諸国からも警戒心が高まるなか、中国寄りの国を増やしたいとの思惑が隠されているからに違いない。特にシアヌークビルは南シナ海にも面しており、中国海軍は新たな拠点として軍事的な意味を見いだそうとしている。そうした思惑もあり、中国はクルーズ船を呼び込むとの表向きの理由で港湾整備のために38億ドルの資金投入。しかし、本音の部分では中国が自由に使える軍港化を狙っているのではないかとの指摘も。実際、カンボジア国軍の装備品や武器の大半は中国製である。

中国の介入を歓迎

 軍事的な思惑を別にしても、このところ、カンボジア各地では中国商品が溢れかえるようになった。筆者も驚かされたが、スーパーの棚は中国ブランドが席巻している。町の看板も大半が中国語に塗り替わっている。

 カンボジアでは政治、経済共に中国依存度が高まるばかりである。カジノから上がる収益だけで、10億ドルを超えているという。このところ、現地ではアリババの創業者ジャック・マーもシアヌークビルに進出するとの噂がもっぱらだ。

 あまり知られていないが、カンボジアには海底油田もあり、その開発利権も中国が着々と手中に収めている。そうした事業を請け負うためには、カンボジア国籍が必要とされる。そのため金で国籍を売買するビジネスも大はやりのようだ。相場は10万ドルという。すでに中国企業はシアヌークビルに近い国立公園の土地33平方キロメートルを99カ年リースで借り受けている。その目的は大規模なリゾート開発や発電所の建設、そして沖合の油田権益の確保に置かれているに違いない。シアヌークビルの住民の20%は中国系が占めるようになっている。

 かつて、日本はODAやアンコールワット遺跡の修復等を通じてカンボジアとの友好親善に努めてきた。しかし、資源の開発利権などには一切かかわってこなかった。中国式の援助とは対極的である。今回の選挙においても、中国は圧倒的な存在感を示した。中国からの膨大な投資や経済支援で国づくりを進めるというフン・セン首相を全面的に支える動きを見せたからだ。

 ユネスコの世界遺産に登録されているアンコールワット遺跡の周辺にも「リゾートとカジノ開発の波」が押し寄せ始めている。その中心的プロモーターが中国の犯罪集団トライアドである。彼らにとってはユネスコのお墨付きもビジネスに利用できるという発想のようだ。フン・セン政権は、こうした傍若無人とも思える外部からの政治的、経済的な介入を歓迎しているようにも見える。先の選挙はその象徴的出来事といえるかもしれない。

 一方、アメリカ政府を筆頭に、EU諸国などはフン・セン独裁体制下の選挙結果は認められないと強い立場で臨んでいる。ホワイトハウスでは「自由でも公正でもない欠陥選挙である」との非難声明を発表したほど。その上で、アメリカ議会はフン・セン首相など政府要人の入国制限などの制裁法案を可決した。EUの場合は、関税の優遇措置の撤退の検討も始めた。そうなれば、欧米市場への依存度の高いカンボジアの繊維産業は大きな打撃を受けることになるだろう。

 日本はその点、あいまいな姿勢に終始している。カンボジアの顔を立て、8億円の選挙支援は行ったが、欧米諸国に歩調を合わせ、選挙監視団は見送るという対応であった。一方、中国の動きは徹底していた。フン・セン首相の権力基盤を盤石にするため、日本の100倍規模で選挙支援活動を実施。親中国派の首相が落選し逮捕されることになった「マレーシアの徹を踏まないように」との深慮遠謀がうかがえた。

日本に来る外国人観光客は、カジノを求めてくるのではない

 いずれにせよ、選挙もカジノ経営も同じような視点で取り組んでいるのがカンボジアの現政権である。カジノを起爆剤に中国のみならず周辺国の富裕層を取り込む作戦は、今のところ順調に推移しているように見える。とはいえ、カンボジアではカジノ絡みの犯罪も急増中。一部のカンボジア人は大きな富を手にしたようだが、国民の大半は急激な土地や物価の値上がりで苦しい生活を余儀なくされている。

 また、自然豊かで「地上の最後の楽園」と呼ばれていた地域が次々とホテル、リゾート、カジノに様変わり、自然破壊も進行しているようだ。これでは、いずれ大きな反動が来ることが懸念される。中国式のインフラ輸出やカジノ最優先政策はカンボジア国内における貧富の格差を急拡大させている。

 ところで、カジノ法案をめぐって、日本の国会では「依存症対策が懸念される」といった意見も出されたが、日本人のギャンブル好みは激減しており、パチンコも競輪、競馬も最盛期の1割程度の売り上げだ。平和島の競艇など、最盛期には1日10億円を下らぬ売り上げがあったのだが、今では1日1億円がせいぜいといった具合。

 こうしたカジノ経営をめぐる厳しい環境を無視し、勝手な思い込みで「国内3カ所のカジノを20年代の前半に開設する」との政府の目論見は、現実を無視したもの。第一、訪日客の大半はギャンブルなど求めていない。彼らは日本人の「おもてなし」を期待しているのである。カジノではなく、食を含む日本の伝統文化やハイテクサービスで勝負を賭けるべき時だ。カンボジアで進行中の「カジノによる観光立国」の行方は日本にとって真摯に「他山の石」とすべきであろう。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)

浜田和幸/国際政治経済学者

浜田和幸/国際政治経済学者

国際政治経済学者。前参議院議員、元総務大臣・外務大臣政務官。2020東京オリンピック招致委員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士

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