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中村芳子「お金のことで苦労せず、人生を楽しむためのお金の基本」

「絶対儲かる」に騙され、30年かけ貯めた1千万円が一瞬でゼロに…50代が狙われている

文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

50代が狙われる理由は退職後への不安

 今回のケースは、取引の前に商品の説明を受け「仕組みもリスクも理解しました」という書類にサインしてしまっていたので、詐欺とはいえないが、投資経験がない人を「くりっく365」というハイリスクの外国為替証拠金取引(FX)に勧誘するのは、悪質以外の何物でもない。

 聞いたところによると、学校教師や医師など、真面目なインテリ、専門分野での知識は高いが、それ以外の分野は疎い人たちが、悪質な金融取引の営業対象に狙われているという。

 仕事がら、金融詐欺の被害にあった人の相談を受けることも少なくない。過去の例を思い出していて気がついたのは、全員が50代ということだ。

1.金持ちではないが、真面目に働いて1000〜3000万円程度の貯金をつくっていた。
2.銀行預金と貯蓄型の保険だけで貯めてきて、投資経験はない。
3.退職が近づいて、老後がなんとなく不安になってきた。
4.そんな時に「手持ちのお金を大きく増やせますよ」と勧誘され、つい話を聞いてしまった
5.相手はプロだから、投資経験がない人を騙すのは赤子の手をひねるより簡単。

 まず300万円。プラス500万円。さらに1000万円、2000万円と入金させられ、気がついたら残高がゼロになったり、借金を抱えたり、業者が消えてしまったりする。夫婦で30年かけて貯めたお金を失ってしまったことが原因で、離婚してしまったカップルもいる。

 幸い、今回の相談者カップル、真面目な彼は「1日寝込んで、立ち直るのに1週間以上かかった」が、楽観的な彼女は「これから気をつけなきゃ。簡単に人を信用しちゃだめね」ということで、夫婦関係にはひびは入らなかった。ただ、今回の被害がなければ数年以内に「自宅を買う」夢が実現できたところ、先延ばしにせざるを得なくなった。

 投資経験がないと、投資のリスクがわからず騙されてしまう。真面目で高学歴の人が騙されてしまう最大の原因は、投資経験がないことだ。お金を預けたことがある金融商品は、銀行預金、郵便貯金、貯蓄型の保険(養老保険、学資保険、年金保険)などだけ、という人たちだ。

 そうすると、投資にはリスクがつきもの、わからない投資に手を出してはいけない、一度にまとまったお金を入れてはいけない、など、投資の基本中の基本がわかっていないので、「絶対に儲かりますよ」「リスクはありません」「選ばれた人たちだけに紹介しています」などというありえない嘘に、ころりと騙されてしまう。

 次の3つのことを心得てほしい。

(1)投資にはリスクがつきもの
 
 年10%値上がりする可能性があるものは、年10%以上値下がりするリスクがある。3カ月で2倍になる(100%値上がりする)可能性があるものは、3カ月で0になる(100%値下がりする)可能性がある。商品先物取引や外国為替証拠金取引(FX)のように、入金額の数倍〜数十倍の借金をして投資にあてる仕組みのものは、100万円の投資が1000万円になる可能性がある一方で、900万円の借金をかかえるリスクがある。

 ところが、リスクは頭で考えるだけではわからない。実際に損をして、痛い目にあって初めて、損をするということが理解できる。若いうちから投資をして、損をして、痛みを経て投資を経験するのが大切なのは、そのためだ。50歳からでも55歳からでも遅くない。

 そして、損をするから投資をしない、ではなく、損が小さくなるようにコントロールしながら、自分はどのくらいのリスクがとれるかを知って、投資を続けていくことが大切だ。

(2)わからない投資には手を出さない、でも投資信託は理解すべし

 説明を受けてわからないまま「理解しました」という書類に、絶対サインをしてはいけない。理解できない投資には、絶対に手を出してはいけない。ただし、投資の基本商品である「投資信託」は話が別。これは、時間をかけて少しずつやってみて、必ず理解して、使いこなせるようになってほしい。

(3)パートナーや家族、専門家に相談する

 投資経験のない人が投資を始めるときは、ひとりで判断しないで、パートナーや家族に相談してみよう。家族もよくわからない、というときは、消費生活センターなどの公共サービスやファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してみよう。金融の世界はどんどん進歩し、変化している。わからないことがあって当たり前。恥ずかしがる必要はまったくない。わからないことがあったら、わかるまで聞く。

 投資のことも、健康のことも、人間関係も、わからないことをほうっておくと、手遅れになることが少なくない。勇気を出して尋ねよう。50代、大人の勇気を出してね。

(文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー)

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中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー

1985年よりFP業に携わる日本のFPの草分け。 女性FP協会(現WAFP関東)の設立者の一人、初代理事長。 1991年に会社を設立。パーソナル・コンサルティング、金融記事の執筆、金融企画のアドバイスなどを行っている。マネックス証券創業時より7年間アドバイザーをつとめる。みずほ銀行の夫婦向けマネーサイト「おうちのおかね」(2010―2016)を監修。辛口だが、お金だけにとらわれないユニークで温かいアドバイスが人気。


主な著書に『50代のいま、やっておくべきお金のこと』『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(以上ダイヤモンド社) 『女性が28歳までに知っておきたいお金の貯め方』(三笠書房) などがある。『3日でわかる聖書』『養子でわくわく家族』『神の津波』など、お金以外の著書や翻訳もある。

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