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現場報告 スルガ銀行第三者委員会調査結果

文=有森隆/ジャーナリスト
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現場報告 スルガ銀行第三者委員会調査結果の画像1スルガ銀行(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 スルガ銀行(有國三知男代表取締役社長)は9月7日、「第三者委員会の調査報告書の受領と今後の当社の対応について」と題するニュースリリースを出した。

収益不動産ローンに係る損失の計上

 スルガ銀行はシェアハウスローンに関して、2018年3月期に420億4900万円の貸倒引当金を計上した。シェアハウス以外の投資用不動産関連融資についても、関係する不動産業者等の属性や長期サブリースなど、シェアハウスローンと類似のリスクがあることから162億2600万円(推計)の貸倒引当金を計上した。2018年6月期までに、収益不動産ローン全般で、スルガ銀行は717億9600万円(推計)の貸倒引当金を計上している。

 個別の不正行為等-①直接的な偽装行為。債務者関係資料の偽装。シェアハウスローンを含む収益不動産ローンにおいて、10%の自己資金を投資家に要求する運用になっているため、10%の自己資金を用意できない投資家や当該投資家に不動産を販売した業者が、10%の自己資金があるよう偽装する工作が行われた。(中略)不動産購入後も相応の金融資産を有しているように見せかけるために自己資金の偽装も同時に行われた。現実的な家賃設定額の見込みを超える家賃の設定が行われていた。売買関連資料の偽装。スルガ銀行は、事実上、売買価格の90%で融資限度額とされるため、虚偽の価格を記載した売買契約書を提出させていた。

 書類の偽装の蔓延。偽装が疑われる件数は2014年以降で795件あった。

 個別の不正行為等-②偽装以外の不正。抱合わせ販売。横浜東口支店では、有担保ローンと無担保ローンのセット販売率が他の支店に比べ高かった。これを実現するため、スマートライフに対して、無担保ローンをセットにした上でシェアハウス案件を進めるよう要請していた。各支店では、審査部によって取引停止処分となった業者(チャネル)について「ハコ」と呼ばれる別法人を介して関係を継続する行為が公然と行われていた。

 当委員会が行った行員アンケートで、キックバックの受領を自ら認める行員は存在しなかったが、金銭を受領している疑いがある行員(退職者を含む)については複数の回答が寄せられた。しかし、当委員会として、とりわけ退職者から預金通帳の提出を求める権限までないこともあり、それらの者が実際に業者から金銭を受領していることの確証まで得ることはできなかった。

 営業の問題。スルガ銀行の単年度の営業目標(営業推進項目)は現場の意見を聴取しないトップダウン方式で策定されており、営業現場の実態が勘案されない厳しい営業ノルマとなっていた。かような高い営業目標を課されたパーソナル・バンクは、公式な営業目標である営業推進項目とは別途、さらに高い営業ノルマ(ストレッチ目標)を設定し、その達成のために、センター長会議等において拠点長に対して強度のプレッシャーをかけた。

 極端な形式主義が広がり、書類は債務者から徴求するよりも、融資の事務処理に慣れている業者から徴求した方が効率的であることから、業者からの徴求がスタンダードとなり、行員は債務者と金銭消費貸借契約の締結の際にしか顔を合わせないこととなった。「最初から融資条件を業者に教えておけば、融資条件を満たすような案件しか持ち込まれないから、否決になる案件が減って、銀行側の作業に無駄が出ない」との発想で、業者への審査条件の暴露が盛んにおこなわれ、業者側が審査条件に合うようエビデンスを偽装してくる工作を行うことを可能にした。

 企業風土。スルガ銀行においては、極端なコンプライアンス意識の欠如が認められ、企業風土の著しい劣化があったといわざるを得ない。営業偏重(パーソナル・バンク中心)の人事が行われることとなった。具体的には麻生氏(後で詳述する)の意図する人材がパーソナル・バンクに集中し、また審査部の人事配置まで、本来権限を有しない麻生氏が起案し差配する結果となった。極めて短期業績反映度の高い賞与制度になっていた。しかしながら、麻生氏は強大な力を誇ったとはいえ、執行役員(従業員たる労働者)に過ぎず、より上位者が多数あった上、創業オーナー家である岡野兄弟も存在していた。

 麻生氏というのは麻生治雄専務執行役員。審査部門は麻生氏に恫喝され、ほぼ100%融資を承認していた。麻生氏には創業家の暗黙の後ろ盾があったと第三者委は指摘した。

関係者の法的責任・経営責任の有無。

(1)岡野会長について。第三者委は善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる、とした。2017年7月5日に開催された会議の結果、シェアハウスローンのリスクや問題が判明し、会社に著しい損害を与えるおそれがある重大な問題が発生していると認知したにもかかわらず、取締役会を開催して報告・付議をすること、および監査役に直ちに伝達することを怠った。同年10月19日の取締役会で上記問題について担当取締役に十分な説明を求めず、また自ら説明もしなかった。故岡野副社長と同等の最も重い経営責任がある。

(2)米山社長について。個別の不正、又はシェアハウスローンに係るリスクを具体的に知り又は知り得た証拠はない。一方で、本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、2016年6月以降は代表取締役であり、また2017年4月以降は最高執行責任者(COO)であるから、就任後の経営に関し一定の経営責任は免れない(ただし、経営責任が「重い」というのは酷である)。

(3)故岡野副社長について(番頭役の岡野喜之助副社長)。1998年4月から2016年7月に逝去するまでの間、長年にわたり、スルガ銀行の業務執行全般における実質的な最高意思決定者であったが、①営業を極端に重視した人事、②過大な営業目標、③営業重視かつコンプライアンス軽視の組織風土の形成、④審査部門の弱体化、その他により「本件の構図」を構築してしまった主たる責任者であり、問題となり得る点は少なからずある。しかしながら、こられは現在の役職員らのインタビュー結果に依拠していること、既に逝去されており弁明の機会を付与することができないこと、本人に対する責任追及の余地がないこと等に照らし、当委員会としては法的責任についての判断を留保する。ただし、経営責任については、「本件の構図」を作り上げ企業風土の著しい劣化を招いた主たる責任者であって、優に認定できる。

(4)白井専務について。本件発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、①コンプライアンスを管掌する取締役として自己資金確認資料の改竄の疑いがあることを認識し得る契機はあったこと、②スマートライフとの取引中止の旨の社内への周知不足に関し、適切な対応を欠いていたこと、人事部を管掌する取締役でありながら、③人事異動に関する報告が自己に対して一切されない状況を放置したこと等に照らすと、専務取締役(代表取締役)として、その職務を十分に果たしてきたとはいえず、経営責任がある。

(5)望月専務について。個別の不正を具体的に知り又は知り得た証拠はない。一方で、本件問題発覚後の諸行動に関しては、善管注意義務違反(一部法令違反)が認められる。「本件の構図」として述べたような会社の仕組みを構築してしまったことについて、法的責任は認められないが、2011年6月以降は専務取締役であり、また、CFOとして財務関係の数値に関して恒常的に報告を受け、社内の各種情報にアクセス可能な立場にあったのであり、専務取締役として、その職責を十分に果たしてきたとはいえず、経営責任がある。

(6)岡崎氏(元専務取締役)について(岡崎吉弘氏。3月31日付で退任)。以下の点に関しては、営業管掌取締役として職務を懈怠したものと認められる。営業戦略に結びつくような情報も含めて業績をモニタリングする義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったこと。長年の営業現場での経験からも、業者(チャネル)が不正なエビデンスを作成してスルガ銀行に持ち込む可能性があることや、いったん出入り禁止としたはずの業者が別の法人の形式でスルガ銀行に再度接近してくるリスクがあることを認識していたにも関わらず、営業本部においてこうしたリスクに対応した内部統制(不適切な融資が増加しないための内部統制)を構築・運用されていることのモニタリングを怠ったこと。また、以下の点に関しては、営業本部長を兼務する取締役としての職務を懈怠したものと認められる。営業本部において必要な内部統制を構築・運用する義務を怠っていたこと。加えて、「本件の構図」を産んでしまった要因のうち、営業本部と経営陣との間の情報の断絶を作出したのは岡崎氏に他ならず、その経営責任は、故岡野副社長に次ぐ重いものである。

(7)有國取締役について。新社長である。2016年6月に取締役に就任した後は、監査部管掌兼CRO(最高リスク管理責任者)、システム部管掌、システム部管掌兼業務部管掌、融資管理部管掌を歴任しているところ、まず、これらの管掌取締役としての職務に関し、明らかな善管注意義務違反があったとは認められない。一方、取締役就任前は、経営企画部キャスティング部(現人事部)の部長を務めており、人事に関する様々な問題を認識していた。とりわけ、審査部の人事に営業の意向が色濃く反映されることにより、審査が無力化し、与信リスクが発現する可能性を具体的に認識し得たにもかかわらず、取締役就任後、遅滞なく当該問題を取締役会に報告する等の方法による是正を試みなかったことに関しては、明らかな善管注意義務違反があったとまでは断定できないまでも、一定の経営責任は免れない。新しい社長にも一定の経営責任があると断定した。

(8)麻生氏(元専務執行役・Co‐COO)について。以下の点等に関して、営業本部の執行役員としての注意義務に違反していた。審査部の人事に介入したこと。シェアハウスローンについて、構造的な問題やリスクが非常に大きいことが議論されたにもかかわらず、ごく限定的な対応だけでさらにシェアハウスローンを推進してしまったこと。2017年10月19日の経営会議で融資条件を厳しくすることが決定されたにもかかわらず、同年10月31日の社内会議でそれに抵触する取扱いを決めたことに関与し、その後実際に経営会議決議違反となる融資の稟議申請をし、融資実行させたこと。収益不動産ローンにおいて、各種リスクが増大しているにもかかわらず、営業本部において必要な監督を行う義務を怠ったこと。この他、センター長会議での度重なる叱責、営業邁進の厳命、審査部に対して審査を通すよう強く要求したこと等は、直ちに注意義務に違反するとまではいえないものの、企業風土の劣化を招く行為であったことは否定できず、スルガ銀行で生じた企業風土の著しい劣化に寄与した度合いは大きい。一方、経営陣ではなく、情報の断絶が生じているスルガ銀行の中で、現場に明確な形で介入しない経営陣の下、ひたすら営業に邁進した立場というべきである。したがって、「本件の構図」を作った張本人ではないし、その構図について責任があるとするのは酷であろう(それは経営トップの責任である)。

(9)社内監査役について。以下の点等に関して、監査役としての善管注意義務違反が認められる。大きな規模の関係融資がある先で、問題の兆候を認識する機会があったのであるから、それぞれの時点できちんと調査すべきであったにもかかわらず、それをしなかったこと。経営会議において、経営に大きな影響が出る決定がなされたにもかかわらず、監査役会に適切な報告をしなかったこと。非公式な社内会議で、経営会議の決定を覆す取扱いが定められたことを認識しながら、これを社外監査役に伝達せず、監査役会にも報告しなかったこと。問題のある行員のリストを入手しながら、特段の調査をせず、社外監査役への報告もしなかったこと。

 報告書を総括する。営業を重視し法令順守を軽視する風土を作り上げたのは、岡野光喜会長の実弟の喜之助副社長と、第三者委の報告書は認定した。喜之助氏は2015年には見かねてシェアハウス関連取引を口頭で禁止したが、麻生氏や横浜東口支店長らはこれを無視。喜之助氏が16年に急逝するとタガが外れ、暴走に拍車がかかった。スルガ銀行が個人向けローンに傾斜していったのは米国の銀行にヒントを得て喜之助副社長が考案したビジネスモデルだったという。

 横浜東口支店元支店長の責任について、第三者調査報告書には何も書かれていない。元支店長が今回の一連の不祥事の準主犯なのではないのか。

スルガ銀の構造的な欠陥

 業務の執行に関してはほぼ執行役員に任せ切りであり、取締役会や社外役員には単年度の営業目標や中期経営計画すら知らされていなかった。

 持ち株比率や創業家の権力を背景に全体としてのスルガ銀行は完全に支配されていた。他方、現場の営業部門は強力な営業推進力を有する者、しかも従業員クラスに任せ、その者には厳しく営業の数字を上げることを要求し、人事は数字次第となっていた。

 営業本部が逸脱行為を繰り返したことの大元の原因は、そのような意図的と評価されてもやむを得ない断絶と放任・許容にあった。

 本件は、作り出された「限定的な聖域化」、「無責任・営業推進態勢」という経営層に都合のいい態勢の結末というべきである。経営層に一貫した主体的な対応の姿勢が欠如していたこと。リスクに対する感度と業務への知見が欠如していたこと。業務指示に違反した行為を適切に認識し、対応する意識が欠如していたこと。社内の意思決定に係る内部統制が適切に整備・運用されていなかったこと。

 ああ、無情である。まともに近かった(傍点は筆者)行員は浮かばれない。

 朝日新聞(9月12日付朝刊)は〈住宅ローン実績に「不動産投資」参入 スルガ銀、損失リスク〉と報じた。〈スルガ銀の担当者は、以前の「住宅ローン」には、一部の不動産投資物件が含まれていたと明らかにした。貸し倒れリスクの低い住居は投資用でも住宅ローンに入れていたという。質問をされれば説明していた、といい、問題はないとしている〉。

〈ただ、市場では「多くの投資家は『住宅ローン』に投資物件が含まれるとは思わず、誤解を与えるのでは」(アナリスト)と指摘する声がある〉、〈シェアハウスと同様に、不動産投資向け融資の多くで不正があれば、多額の貸し倒れ引当金の追加計上を迫られる可能性がある〉とした。「質問されれば説明していた」と平然と言うスルガ銀行の担当者。バンカーとしての倫理観が麻痺しているのではないのか。
(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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