
「LINE NEWS」で配信されているドラマ『ミライさん』は、近未来を舞台にしたコメディドラマだ。主人公のミライさんを演じるのは、のん(能年玲奈)。1話10分程度のドラマの中で描かれるのは、未来の風景。
たとえば、第1話では、ミライさんがロボットの男性を家族のもとに連れてきて、結婚したいと言ったことから始まるドタバタ劇が展開される。ほかにも、生地の色や模様を自在に変えられる服や、頭の中で考えたことを相手に伝えることができる自動翻訳機などが登場する。
その意味でも、未来的な作品だ。しかし、家は色こそカラフルだが、畳とふすまと縁側のある日本家屋である。マキタスポーツが演じるお父さんの描写は昭和的で、むしろなつかしくすら感じる。このあたりは、藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』(小学館)のようでもある。
物語は10月6日に配信される第5回で完結するが、未来のアイテムにまつわるドタバタを描いていけば、いくらでも展開できるのではないかと思う。
時代を象徴する「LINEのドラマにのんが主演」
本作は、今のドラマが抱える揺らぎを象徴する作品である。まず、放送形態はLINE NEWSで毎週土曜20時に配信。動画は「YouTube」に全話アーカイブ化されており、配信終了後に見ることができる。このあたりはネットならではだ。
何より、のんが久々に出演したドラマである。連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)の主演を務めたことで、能年は名実ともに国民的女優となった。しかし、事務所移籍をめぐるトラブルで出演作は激減し、活動休止状態に陥る。2016年、能年は事務所から独立。名前をのんに改名する。厳しい状況からの再スタートだったが、アニメ映画『この世界の片隅に』(東京テアトル)では声優として主人公・北條すず役に抜擢され、高い評価を得る。
『あまちゃん』と『この世界の片隅に』。この2作に出演したことで、のんは2010年代を象徴する女優となったが、テレビドラマや映画では、いまだ新作がつくられていない。
そんななか、彼女がLINEという新興メディアでつくられた新しいドラマに出演するということは、とても時代を象徴する出来事だといえる。
LINEとのんの関係は深い。LINEモバイルのCMにも起用されており、自身も「LINE LIVE」で「のんちゃんねる」という動画コンテンツを持っている。その意味で、今回のドラマ出演は満を持してのものだったといえる。
『ミライさん』に感じる不満と可能性
思えば、『あまちゃん』は、東京とテレビ局を中心とした80年代型アイドルと、00年代後半以降に勃興した地方とネットを拠点とするライブアイドルの対比を描いた作品だった。今ののんの姿は、『あまちゃん』のその後を見ているかのようだ。
『あまちゃん』でのんが獲得したブランドイメージは、今も強固だ。『あまちゃん』の舞台となった岩手の銀行やJA全農(全国農業協同組合連合会)のCMにも起用されている。最近はロート製薬のスキンケアコスメ「肌ラボ」シリーズの中国でのCMに抜擢され、中国進出も夢ではなくなっている。
ただ、女優としては、『あまちゃん』以降のイメージが彼女の可能性を狭めているのではないかと感じる。『ミライさん』で演じる役柄について、のんは今まで演じた役のなかで一番のクズだと語っているが、観た印象で言うと『あまちゃん』の天野アキと大きく変わらない。