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【伊調パワハラ問題】栄和人氏、田南部コーチを名誉毀損で提訴「告発状の大部分は虚偽」

文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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【伊調パワハラ問題】栄和人氏、田南部コーチを名誉毀損で提訴「告発状の大部分は虚偽」の画像1写真:AFP/アフロ

 沈黙していた男が、ついに反撃に出た――。

 女子レスリング五輪4連覇の伊調馨選手(34)と、田南部力コーチ(43)に対するパワハラ騒動で、日本レスリング協会の要職を解かれた栄和人氏(58)が9月20日、「虚偽内容の告発で名誉を棄損された」として、田南部コーチを名古屋地裁に提訴し、330万円の損害賠償金を求めた。

 1月に田南部氏が弁護士に託して匿名で内閣府に提出させた告発状の主旨は以下の2点だった。

(1)栄氏が伊調選手の警視庁道場への出入りを禁じた
(2)田南部コーチに対し伊調馨の指導をしないように不当に圧力をかけた

「(協会の)福田会長、高田専務、栄理事にとって伊調のオリンピック4連覇、国民栄誉賞は憎むべき事実であった。(栄理事は吉田が4連覇するよりも伊調が負けるのを見たいと周囲に話していた)」とまでしていた。

 しかし今年4月、協会が委託した第三者委員会は「伊調選手の処遇は警視庁監督の一存で決められることであり、彼が伊調選手の所属する警備会社ALSOKの監督との話し合いで、事前に栄氏に(伊調選手を警視庁道場から追い出すことを)求められたとする事情は証拠から認められない」との報告をしていた。

 協会は2016年9月に田南部コーチを全日本男子の強化コーチから外したが、「ナショナルチームのコーチは再任が当然ではなく、田南部を選任しないことはパワハラとはいえず、警視庁監督が栄氏と田南部を警視庁レスリング部から外すことを事前に話し合っていた証拠はない」としている。これらの結果から、栄氏の訴状は、「栄氏が伊調選手に警視庁の出入りを禁じた」「田南部コーチが同選手に指導をしないように不当な圧力をかけた」という主張を否定している。

 さらに栄氏が「至学館大に来なければ五輪に選ばれない、と言って中学生や高校生の有力選手に金銭を渡して同大学へ来るように求めた」「全日本の合宿で日本体育大学の女子選手に陰湿ないじめをした」なども虚偽内容であるとした。田南部氏は確たる情報を得て告発したのではなく、「虚偽であることを知りながら、事実のように装い、弁護士に提出させた」とも主張している。

「告発の核心部分が虚偽」

 委員会報告では、田南部氏の告発の「俺の前でよくレスリングができるな」と言ったことなどは認定したが、要は告発状の肝要な部分はほとんど否定したのだ。しかし、告発状にはさまざまな「パワハラ」が書かれていたため、テレビなどは、氏が伊調選手の練習環境を妨害し、田南部コーチに伊調選手の指導をしないように不当な圧力をかけたというように興味本位で報道した。社会的名誉を傷付けられ、大きな心理的ストレスとなった栄氏は医師からはうつ病と判断され、現在も通院していることから賠償を求めた。

 栄氏は、次のように話す。

「田南部コーチが男子の指導をせずに伊調選手との練習ばかりする、という苦情が次々と耳に入り、2人の練習は合同練習が終わってからにしなさいと何度も注意した。勝手に合宿を抜け出すとか、全日本チームの和を乱す勝手な行動が多かったために注意しただけ。馨が負けるのを望んでいた、など大嘘。このまま引き下がれない」

 今年6月に至学館大学レスリング部の監督を解任された栄氏は、「大学に迷惑をかけた」と8月末付けで依願退職している。今後については未定だという。

 代理人の鈴木良明弁護士はこう話す。

「栄氏は決して、まったくパワハラがなかったとは言っていません。しかし告発の核心部分が虚偽だったのに、テレビではあったかのように報じられて悪人に仕立てられた。栄氏は反論してうまく話すことが得手ではなかったが、司法の場で糾してもらいたい。本当は伊調選手と田南部コーチには、他の女子選手らが気を遣わなくてはならなくなる逆パワハラのようなことにもなっていたのです」

 一方、協会関係者によれば、田南部氏は外部コーチとして4月から日体大に入り、伊調選手も10月13、14日の復帰戦「全日本女子オープン」に向けて同大学で練習をしている。だが、警察官の田南部氏はレスリング部のある部署の勤務ではなくなり、伊調選手の合宿に参加するなどの融通が利かなくなったため、2人は警視庁に善処を求めているという。

 今になって昔のことなどを持ち出した不自然な告発の背景には、「名伯楽」ともてはやされた栄氏への嫉妬や、栄氏と伊調選手が不仲になっていたことを利用して、東京五輪を前に至学館大学から女子レスリング界の主導権を奪いたいと考える日体大など他大学のレスリング関係者による権力闘争があった。多くの五輪メダリストを育てた栄氏は、指導や試合のセコンドでは無類の力を発揮し、マット外でも細やかな気遣いで女性選手の信頼を得てきた。しかし大きな組織をそつなく管理することには不向きだった。協会から功績が評価されて、4年前に女子強化本部長から男子選手の指導者にも物言う立場の強化本部長に昇格したことが、そもそもの間違いだったようだ。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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