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我が国の刑務所は、認知症の高齢者や障害のある人たちの「福祉施設」と化していた

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 母子2人で寄り添うように暮らしていたが、お母さんが病気で亡くなり、Aさんはひとりぼっちになってしまった。親戚も頼れる友人もないAさんは、障害があるため仕事も長続きしない。やむなくホームレスとなったAさんは、お母さんの言葉を思い出した。

「神様にあずけていたお金で助けてもらおう」。Aさんは、かつてお母さんと行った神社で賽銭箱をひっくり返した。最初に盗んだのは200円。通行人に通報され逮捕されたAさんは、裁判で懲役1年6カ月の実刑判決を受けたが、初犯だったため執行猶予がつき釈放された。

 釈放されたことで、「外に出られたから、やっぱり悪いことじゃないんだ」と確信したAさんは、また同じ神社で賽銭箱をひっくり返した。盗んだのは100円。しかし、執行猶予中だったため、Aさんは刑務所に服役することになった。2度目の裁判で、Aさんは「まだ700円、神様に貸している」と裁判長に言ったが、その言い分は聞き入れてもらえなかった。

「300円だって窃盗は窃盗だから、罪を償わなければならないのは当然ですが、こういう軽い罪は、普通なら刑務所に入るまでもありません。被害を受けた神社に心から謝って、家族のもとに帰るか福祉施設に入るのが定番です。だけど、Aさんは身寄りのない放浪暮らし。知的障害があっても、福祉につながっていなかった。Aさんは刑務所しか居場所がなかったんです。

 これは珍しい話ではありません。刑務所の中には、Aさんのような知的障害のある人が大勢いる。貧困とか悲惨な家庭環境とか、いくつもの悪条件が重なり、不幸にして犯罪に結びついているケースが非常に多いのです。彼らは、軽い罪を犯すことによって、冷たい社会から刑務所に避難してきたともいえる人たちなのです」(同)

30円を盗んで懲役3年


 なかには、300円はおろか、たった30円を盗んで懲役3年の実刑判決を受けた人もいる。Bさんは中度の知的障害者で、小学校低学年くらいの精神年齢だったという。あるとき、駐車中のクルマの窓が開いていて、ダッシュボードの上に10円玉が3枚あったので、つい取ってしまった。Bさんは通報され、すぐ逮捕。再犯だったので「常習累犯窃盗罪」という重い罪名をつけられて、懲役3年の実刑判決を受けた。

「30円盗んで懲役3年になってしまうのは、ひとつには本人の障害特性の問題があります。知的障害のある人は、『反省しています』と、容易には言葉に出して言えないんです。もうひとつは、裁判官が『社会に出しても生活スキルがないんじゃないか。生きていけないんじゃないか』と不安視してしまうことです。とりあえず刑務所という行政機関に送ったほうが安心だという判断が働くのでしょう。

 警察の取り調べだって、きっとまともなやり取りは行われていないはずですが、それでも見事な員面調書が取られているんです。それを頼りに、検察官も首をひねりながら検面調書を取ってそのまま起訴しちゃう。検察官も、できればこういう障害者たちを送検してほしくない。できれば見たくない。だから今、検察庁のなかに福祉職の人が常駐するようになってきています」(同)

『刑務所しか居場所がない人たち : 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』

刑務所が“おうち”になっちゃった!? 塀の中は、社会の中で行き場をなくした人たちの最後の避難所――ヘンテコで悲しいこの国の現実。

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『獄窓記』

政治家の犯罪。それは私が最も嫌悪するものだった――。三十代の若さで衆議院議員に当選した私は、秘書給与詐取事件で突然足元を掬われる。逮捕、そしてまさかの実刑判決。服役した私の仕事は、障害を持った同囚たちの介助役だった。汚物まみれの凄惨な現場でひたすら働く獄中の日々の中、見えてきた刑務所の実情、福祉行政への課題とは。壮絶なる真実の手記。新潮ドキュメント賞受賞。

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