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我が国の刑務所は、認知症の高齢者や障害のある人たちの「福祉施設」と化していた

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「今、月の半分くらいは刑務所に足を運んでいます。私が直接的にかかわっているのは、社会復帰促進センターという、PFI方式の半官半民の刑務所ですが、それ以外にも全国の刑務所を訪ねて回っています。関東の累犯刑務所も、そのひとつです。私は曲がりなりにも社会の中に居場所を見つけて生きているんですけど、累犯刑務所に行くと、黒羽刑務所で寝食を共にした障害者たちが必ずいるんです。黒羽刑務所は初犯刑務所でしたから、みんなビクビクしていた知的障害のある人たちが、今やいっぱしの“懲役太郎”になって刑務所を終の棲家にしている。

 そういう姿を見てきて、単に司法関係者、福祉関係者だけの取り組みでは、この問題は解決しないと思いました。要は、今の日本の社会の有り様の問題です。ハンディキャップのある人たちがすごく生きづらい。生きづらくても自立を求められる。けれども、実際には孤立してしまって、ちょっと変わったことをする異質な人として、社会から排除されてしまうんです。インクルージョン(包摂)といいながら、実はエクスクルージョン(排除)がすごく働いているんです。私はこれまで刑務所の福祉施設化を憂えてきたんだけど、最近は福祉施設の刑務所化が進んでいて、これも大きな問題だと思っています」(同)

「福祉に行ったら無期懲役」


 法務省と厚労省は2009年、出所する高齢者や障害者で住居のない人を福祉施設に橋渡しする「特別調整」という制度をつくり、各都道府県に「地域生活定着支援センター」を設置した。本人が望めば出所後すぐに福祉施設に入所できるのだが、その対象者の10人中9人は、せっかく国がつくったこの制度を利用しないという。なぜか。

 重度の障害者を受け入れる福祉施設には、日額4万5000円くらいの報酬が支払われるが、軽度の障害者の場合は日額1万7000円ほど。重度の障害者は動き回れないため、職員も支援や介助をしやすい。一方、軽度の障害者は自分で身の回りのことはできるが、そのぶん自由に動き回れるので職員は目を離すことができない。このため、人手不足の施設では刑務所並みの厳しいルールで行動を管理し、軽度の障害者の自由を奪う傾向にあるのだ。「福祉に行ったら無期懲役」。それが、彼らの共通認識になっているのだ。

「日本にも江戸時代くらいまでは障害者を地域で包み込むという文化があったんですが、明治維新以後はそういう文化もなくなってしまった。障害者を病院や人里離れた場所に隔離する政策が推し進められてきました。でも、考えてみてください。人間誰しも、不慮の事故や病気などで、いつ障害者になるかわからないのです。彼らを排除すれば、そのうち自分や自分の子どもも排除される対象になるんじゃないか。排除って、どんどん進んでいきますからね。

 私は、今年で56歳になります。議員としての人生より、福祉の仕事が長くなりました。今のほうがゆっくり止まって考えられていいですね。国会議員時代って、やっぱりわかったような気になっていたんですよ。福祉の問題にも積極的に取り組んでいたつもりなんですが、今考えると表面的なところしか見ていなかったんじゃないかと思います。今も昔も生活は安定しませんが、気持ちの上では今のほうが安定していますね。

 私は恵まれていると思うんですよ。黒羽で1年2カ月間一緒に過ごした彼らが相変わらず刑務所にいるという現実を見ると、本当に切なくなってくるんです。でも、それも他人事ではありませんね。出所後の人生がうまく回っても、どこかに落とし穴が待っているんじゃないか。現実にそういうのも見ているので、これからの自分の人生、調子に乗らず、地道にてらわずに生きていくつもりです。そうしたなかで今も、刑務所の中にいる彼らがひとりでも多く社会に迎えられる環境をつくりたいと思っています」(同)

「刑務所の入口が、排除の入口じゃなくて、インクルージョンの入口になるまで、私の受刑生活は終わらない」

 著書の最後を締めたのは、そんな決意の言葉だった。
(文=兜森衛)

●山本譲司(やまもと・じょうじ)
1962年生まれ。元衆議院議員。2001年に秘書給与詐取事件で実刑判決を受け服役。出所後は障害者福祉施設で働きながら、『獄窓記』『続獄窓記』『累犯障害者』などを世に問い、罪に問われた障害者の問題を社会に提起し続けた。NPO法人ライフサポートネットワークや更生保護法人同歩会を設立し、現在も高齢受刑者や障害のある受刑者の社会復帰支援活動に取り組んでいる。PFI刑務所の運営アドバイザーも務める。2012年『覚醒』、2014年『螺旋階段』、2018年『エンディングノート』(いずれも光文社刊)など小説家としても活躍中。

『刑務所しか居場所がない人たち : 学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』

刑務所が“おうち”になっちゃった!? 塀の中は、社会の中で行き場をなくした人たちの最後の避難所――ヘンテコで悲しいこの国の現実。

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『獄窓記』

政治家の犯罪。それは私が最も嫌悪するものだった――。三十代の若さで衆議院議員に当選した私は、秘書給与詐取事件で突然足元を掬われる。逮捕、そしてまさかの実刑判決。服役した私の仕事は、障害を持った同囚たちの介助役だった。汚物まみれの凄惨な現場でひたすら働く獄中の日々の中、見えてきた刑務所の実情、福祉行政への課題とは。壮絶なる真実の手記。新潮ドキュメント賞受賞。

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