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片田珠美「精神科女医のたわごと」

阿部哲子アナを全番組降板に追い込んだ、不倫相手の妻の強烈な復讐願望と処罰要求

文=片田珠美/精神科医
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阿部哲子アナを全番組降板に追い込んだ、不倫相手の妻の強烈な復讐願望と処罰要求の画像1阿部哲子さんのインスタ

 フリーアナウンサーでタレントの阿部哲子さんが、出演していた番組を9月末ですべて降板したが、その背景には妻子ある男性との不倫関係があったと「女性セブン」(小学館/10月25日号)で報じられた。不倫関係は2015年からで、阿部さんが2017年に離婚するまではW不倫だったようだが、不倫相手の男性は今年5月に50代で亡くなっている。

 こうした不倫関係を告発したのは、亡くなった男性の妻である。妻が遺品を整理していたときに、残されていた亡夫と阿部さんのメールのやりとりを見たらしく、その生々しいやりとりから不倫を疑わざるを得なかったという。

 そのため、阿部さんの出演番組の関係者に、8月頃から、阿部さんが亡夫と不倫関係にあったことを怒りとともに告発し、阿部さんの降板を求める文書が送られるようになった。つまり、妻は夫を亡くしたうえ、亡夫が隠し続けていた“裏切り”についても知ってしまったので、テレビ局に“抗議”の手紙を書くようになったわけである。

 この妻は、「女性セブン」の取材に対して「(私は)とても苦しんだのです。ですから、彼女ものほほんとしていないで、私が苦しんだように苦しむべきだし、懺悔すべきだと思いました」と答えている。

 これは、配偶者の不倫の事実を知って、食欲不振や吐き気、不眠や不安、気分の落ち込みや意欲の低下などに苦しみ、われわれ精神科医のもとを訪れる患者のほとんどが口にする言葉だ。

 このように不倫相手を苦しめたいという気持ちは、強い怒りに由来する。古代ローマの哲学者、セネカが見抜いているように「怒りが楽しむのは他人の苦しみ」であり、「怒りは不幸にするのを欲する」からである。もちろん、不貞行為があった配偶者も責めたいはずだが、この女性のように夫がすでに死亡している場合は、物理的に無理なので、怒りの矛先はひたすら不倫相手に向けられる。

不倫が発覚した後の3つの段階

 配偶者の不倫に気づいて、心身に不調をきたし、心療内科や精神科を受診する人は少なくない。そういう人の話を聞くと、だいたい次の3つの段階を経ることがわかる。

(1)否定
(2)抑うつ
(3)怒り

 最初は、誰でも「まさか、そんなはずはない」と否定しようとする。携帯電話のメールを盗み見たら浮気を疑わざるを得ない内容のものがあったり、ポケットからホテルのレシートが出てきたりしても、目の前の現実から目を背ける。また、言い訳も信じたいと思うし、信じようとする。

 しかし、やがて否定しきれない現実に直面する。スマホやパソコンに保存されていた赤裸々なツーショット写真が見つかったり、興信所の調査で不倫密会の事実が明らかになったりすると、不貞行為があったことを否定しきれなくなる。この時期に落ち込んで抑うつ的になり、心療内科や精神科を受診する人が多い。

 阿部さんと不倫関係にあった男性の妻は、亡夫の“裏切り”を知ってショックで寝込み、一時期は10kg以上もやせてしまったそうだが、この時期は抑うつ状態だったのではないかと精神科医としての長年の臨床経験から推測する。私の外来を受診する患者も、配偶者の不倫が発覚してから、吐き気がして食べられなくなり、体重が激減したと訴えることが多いからだ。

 この抑うつ状態の時期に、ある女性患者は「私は何も悪いことなんかしていないのに、なんでこんな目に遭わないといけないんですか。家事も育児もしっかりやって、姑さんの介護もしてきた。私が姑さんの下の世話をしていたときに、主人は出張だと嘘をついて、部下の女の子と旅行に行っていたんですよ!」と訴えた。この女性は、夫の不倫を知ってから憔悴しきって、何をする気力もなくなり、家事も育児も介護もできなくなったので、夫は困り果てているようだ。

 抑うつ状態から徐々に回復するにつれて、怒りがふつふつと湧いてくる。いや、むしろ、怒り、そして怒りから派生する処罰欲求と復讐願望が回復のエネルギーになることも少なくない。

 阿部さんの不倫相手だった男性の妻は、謝罪の気持ちを伝えた阿部さんに対して、降板するだけでなく、今後一切テレビに出ないようにと言ったそうだ。阿部さんはシングルマザーなので、今後テレビに出演できなければ、経済的に困窮しかねず、不安にさいなまれるだろう。それを見越したうえで、そういう罰を与えて復讐したいという願望から出た発言ではないだろうか。

処罰欲求と復讐願望

 もっとも、これはこの女性に限った話ではない。配偶者の不倫という事実に直面し、否定と抑うつという段階を経て怒りが湧いてくると、どんな人の心にも処罰欲求と復讐願望が芽生えるようだ。とくに、夫婦関係の再構築は無理とあきらめ、離婚を覚悟すると、配偶者と不倫相手に罰を与えて復讐したいという気持ちが強くなる。

 だから、とにかく相手に少しでもダメージを与えようとする。興信所に依頼して不倫の証拠を集め、それを配偶者や不倫相手の勤務先に送りつけて、「こんなことが許されるなんて、貴社の労務管理はどうなっているんですか」と怒鳴り込んだ人もいれば、W不倫の相手の家庭に内容証明を送りつけたうえで弁護士とともに乗り込み、すべてをぶちまけた人もいる。

 こんなことをして、配偶者や不倫相手が職を失う事態になれば、不倫によって精神的苦痛を負ったことに対して請求できるはずの慰謝料を取りそこねるのではないかと心配になる。だが、夫とその不倫相手が勤務していた会社に突撃した女性に尋ねたところ、「お金なんか、本当はどうでもいい。向こうが少しでも苦しめばいい。弁護士に依頼して慰謝料を請求するのも、できるだけたくさん取って、向こうが経済的に困るのを見たいだけ」という答えが返ってきた。おそらく、これが不倫されて怒っている人の本音だろう。

 それだけ処罰欲求と復讐願望が強いのだろうが、その結果、誰もが傷ついて不幸になる最悪の結末になりかねない。もっとも、「復讐なんかやめて、自分が幸福になることを考えなさい」という言葉を安易にかけることには抵抗がある。

 なぜかといえば、配偶者の不倫によって傷つき、復讐することによってしか立ち直れないと思い込むまで追い詰められた患者を何人も診てきたので、こういう言葉がいかに空疎か、よくわかっているからだ。第一、これから自分が幸福になれると思える人は、復讐など考えないはずだ。

 配偶者の不倫に激しい怒りを覚え、復讐の炎を燃やしている人の話を聞くたびに、前出のセネカの「復讐とは、受けた苦痛の告白にすぎない」という言葉を思い出す。それだけ不倫によって受ける苦痛が耐えがたいということだろう。
(文=片田珠美/精神科医)

参考文献
セネカ『怒りについて 他二篇』兼利琢也訳 岩波文庫、2008年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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