介護をプロに任せて、家族は家族にしかできないことを

 母が入所した施設にはデイサービス施設が併設されていたが、制度上、特養の入所者はデイサービスを利用することはできない。月1回くらいはイベントがあるのだが、施設が提供できるのは、飲食や入浴など生活上のサービスに限定される。家族が連れ出さない限り、外出もできないのだ。

 それでは母が退屈するだろうと思い、散歩に連れ出すのが私の仕事となった。車椅子を押して近くの沼畔を歩き、道の駅で買い物をしてから、行きつけの喫茶店でお茶を飲む。2時間あまりの娘との時間を母はとても喜んでくれた。24時間一緒に居たときには思うようにならないストレスを娘にぶつけてきた母も、娘の来訪を心待ちにするようになったのだった。

 次には介護タクシーを使って、少し遠出をすることを思いついた。車で30分ほど行った紅葉の名所の美しさに、母は子どものように喜んでくれた。自宅介護をしていたときには、散歩に連れ出す余裕もなかった私がこんなことを思いついたのは、気持ちにゆとりができたからだ。

 施設不足、介護人材不足など物理的な問題は少なからずある。それとは別の見方として、「家族が介護をするのは愛情の証」というような縛りからは解放されるべきではないだろうか。特養には2年ぐらい待機することを想定して、申し込みが可能な要介護3になった時点で申し込んだほうがいい。介護放棄とは違う意味で、「介護はプロに任せたほうがいい」という価値観が少しでも広がれば、介護者が追いつめられる事態を減らすことができるのだと思う。

 介護で泥沼状態にいたとき、私は人から情報を得て、毎月10日間くらい母をショートステイに預けることにした。おそらく介護者が仕事を持っているという事情で、そのくらいの日数が認められたのではないかと思う。特養への入所は狭き門だが、ショートステイはきちんと予約すれば利用しやすい。そのおかげで、泥沼から片足半分くらいは抜け出すことができた。在宅介護中は、通所介護、訪問看護、訪問リハビリなど最大限プロの力を頼った。

 介護はできるだけプロに任せて、家族は家族にしかできないことをやればいい。それは、自宅介護が終わってから気づいたことだ。16年間の介護を経験した者の答えとして、ここに記したい。
(文=林美保子/フリーライター)

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