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江川紹子の「事件ウオッチ」第114回

【Twitter投稿で戒告処分】言論の自由がない裁判官に、言論の自由についての判断ができるのか

文=江川紹子/ジャーナリスト
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【Twitter投稿で戒告処分】言論の自由がない裁判官に、言論の自由についての判断ができるのかの画像1岡口基一判事に戒告処分を下した最高裁判所(「Wikipedia」より)

 裁判の当事者が、岡口基一判事のツイッター投稿で傷つけられたとして懲戒を申し立てていた「分限裁判」で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は、岡口氏を戒告処分とした。岡口氏のツイートは、自身が担当した裁判ではなく、ネットメディアに掲載されたペットに関する今どきの事件を紹介したものだったが、最高裁は「当事者の感情を傷つけた」とし、裁判所法が定める「品位を辱める行状」にあたるとした。

発端になった記事と岡口氏のツイート

 分限裁判とは、裁判官の免官や懲戒を決める裁判で、高裁判事である岡口氏の場合は、上位裁判所である最高裁で裁かれる。最高裁の所管なので、上訴することはできない。裁判官分限法は審理の公開非公開を定めていない。今回、メディアが審問の傍聴希望を出したが認められず、非公開のまま行われた。

 それでも大手メディアでは、概ね最高裁の決定を肯定する論調だ。毎日新聞などは、本決定を報じる10月18日付の記事に、わざわざ「懲戒やむを得ず」との見出しをつけた解説を載せた。読売新聞も、裁判官に「高い倫理と自覚」を求める解説をつけている。

 一方、憲法学者や弁護士などの法律家からは、憲法で保障されている「言論の自由」の観点などから、多くの異論や批判が起きている。果たして、岡口氏のツイートは、懲戒処分に当たるようなものだったのか。

 発端となったのは、「人とペット共生」「犬や猫ともっと幸せに」をテーマにした、朝日新聞系のサイト「sippo」に掲載された、5月16日付の記事だった。執筆者は、朝日新聞の文化くらし報道部の太田匡彦記者。ペット関係の著書があり、動物愛護に貢献した人を表象する「川島なお美動物愛護賞」の今年の受賞者の1人でもある。今回の記事も、動物愛護の視点から書かれたものだった。

 タイトルは、「放置された犬を保護して飼育 3カ月後に返還要求、裁判に発展」。

 記事によれば、2013年6月の雨上がりの朝、東京・吉祥寺の公園の柵にリードでつながれていたゴールデンレトリバーを近くの主婦が見つけて保護。被毛は濡れ、おなかは泥まみれだった。警察に届けたが、殺処分されるのを恐れ、自分で飼うことにして連れ帰った。先住犬との相性もよく、かわいがって育てていた。

 ところが3カ月後、飼い主が名乗り出たと警察から連絡が入る。主婦が元の飼い主を名乗る女性に事情を聞いたところ、「会社の上司で交際相手でもある同居男性が犬嫌いで、彼が犬を公園に置いてきた。彼を怒らせれば職を失い、結婚も破談になってしまうと思い、何も言えなかった」とのこと。今はこの男性とは別れ犬を飼える環境になっており、「大切な家族だから返してほしい」と説明したという。

 主婦は、この犬が以前にも女性の交際相手の男性によって公園に放置されていたことを知り、犬にとって望ましい飼育環境が確保されないとして返還を拒んだ。すると、女性が返還を求めて裁判を起こした。東京地裁は「女性が所有権を確定的に放棄したとまでは認められない」とし、女性が勝訴。東京高裁も一審判決を支持した。

 裁判をしている間に、犬は推定14歳となった。記事は、遺失物法上、元の飼い主の所有権が失われていないという司法判断を「理解できる」としながら、犬に平穏な余生を送らせることを考えるべきではないか、という「ペット関連法に詳しい弁護士」のコメントを紹介。「大岡裁きができなかったのか」と述べ、命ある犬を「遺失物」として扱うことに疑問を投げかけている。

 「大岡裁き」を持ち出した記者の頭には、有名な「子争い」があったろう。1人の子供について「私が母親」と名乗る女2人の訴えを裁く際に、「力いっぱい引き合って勝ったほうを母親とする」と言って、両方から子供の手を引っ張らせると子供は痛がって泣く。一方の女は、それを可哀想に思い、手を離してしまった。もう1人の女が意気揚々と子供を連れていこうとしたが、大岡越前は手を離した女のほうを母親と認めた。子供にとって最善の道を考えた大岡のように、裁判所は動物の幸せのためにもう少し知恵を絞ってほしい、という注文だ。

 犬や猫などのペットが家族として大事にされるようになった現代ならではの裁判ともいえ、そういう時代に法律が追いついていない現状も、この記事からは読み取れる。

 この記事は、ヤフーニュースにも転載された。岡口氏はツイッターでリンクを張って、記事を紹介するかたちで、こう書いた。

「公園に放置されていた犬を保護して育てていたら、3カ月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、『返して下さい】。え? あなた? この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・ 裁判の結果は・・」

 先の記事の概要からも分かるように、ツイートのうち「公園に放置~」から「3か月も放置しておきながら・・」までは、事実経過と原告・被告の主張をコンパクトに要約したもの。最後に「裁判の結果は・・」と記事を紹介するだけで、岡口氏の意見は書かれていない。

 しかし、最高裁の決定は、次のように断じた。

「本件ツイートは、一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、そのような訴訟を上記飼い主が提起すること自体が不当であると被申立人(=岡口判事)が考えていることを示すものと受け止めざるを得ない」

「そうすると、被申立人は、裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で、判決が確定した担当外の民事訴訟に関し……原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えたものといえる」

 え?!
 なんで、そうなるの?!

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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