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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

オーケストラのプロの指揮者になる方法は、指揮者自身もよくわからない?

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指揮者になるための道筋

 実は、コンクールで賞を取る以外にも指揮者になる道はあります。ヨーロッパでの話になりますが、指揮を勉強しながら、ピアノを必死で練習して、オペラ劇場に練習用ピアニストとして雇ってもらう方法です。劇場の中では、歌手に練習をつけたり、時にはリハーサルを指揮したり、現場でオペラを覚えていきます。つまりは、現場で丁稚奉公をするわけです。それをずっと続けて行くなかで、運良く「一度、指揮を振ってみるか?」と、簡単なオペラの指揮を任されたりするのです。そこで、周りをうならせるような指揮を振ることができたら、もう少し本格的なオペラを指揮する機会を与えられます。そうやって、頭角を現していきます。するとその後、オペラ劇場の音楽監督になったり、オーケストラからも指揮を依頼され始めていきます。昔はコンクールなどなかったので、これこそ王道と呼べるのかもしれません。実際に、こうやって指揮者となって後年、世界的な活動をしている指揮者もたくさんいます。

 一方、アメリカにはオペラ劇場が少ないので、オーケストラの副指揮者オーディションに合格して、そこで修業を積むという方法があります。僕も、ロサンゼルス・フィルハーモニックの副指揮者を3年間務めたので、コンクールとアメリカの副指揮者経験によって、今の自分があるといえます。

 これ以外にも、著名な指揮教師が、才能ある生徒をオーケストラに推薦することもあります。これまでにたくさんの実力ある指揮者を輩出してきた指揮教師に対する信用をもって、オーケストラは若手起用の“賭け”に出るわけです。

 オーケストラにとっても、今、活躍している指揮者でもいつかは年を取ってしまうわけで、新しい指揮者を探さなくてはならないことはよくわかっています。しかし、まったく未知の指揮者を起用するだけでなく、相手はまったく経験がないという事情を勘案すると、僕がオーケストラマネージャーなら、まず躊躇するでしょう。ほかのオーケストラを指揮した評判を、まずは聞きたいところです。とはいえ、これからデビューする指揮者はコンサートを指揮したことがないわけで、そもそも評判なんてありません。僕も、自分が指揮者になれたことは、あらためて考えてみると不思議です。

 ほかにも、オーケストラのコンサートマスターが指揮者になったり、有名なピアニストが「前半は協奏曲を弾く代わりに、後半は指揮をさせてほしい」と言ったりして、指揮者になっていく場合もあります。「世界三大テノール」のひとりとしてお馴染みのプラシド・ドミンゴが全盛のころは、「オペラ劇場で2回歌うから、1度指揮をする」という契約を、至る所で結んでいました。しかし、この方法は誰でも取れるわけではありません。まずは自分の専門楽器で一角の演奏家になるだけでも、至難の業なのですから。

 さて、指揮者になれたとして、それからがまた大変なのですが、それはいずれ別の機会に書かせていただくことにします。ちなみに、本連載の第1回目『指揮者ほど最高の職業はない!オーケストラ楽員との丁々発止の後の演奏は病みつき』でも少し触れています。合わせてご一読いただければ幸いです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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