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高杉康成「コンセプト・シナジーな経営戦略」

インダストリー4.0は革命か、空想か…ネットワーク巨大化がもたらすデメリット

文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

 先ほどの事例で考えてみると、地方の路線バスのたったひとつのトラブルが、1000万人の人々に影響を及ぼす可能性も捨てきれません。少なくとも現在は路線バスと鉄道はネットワークで切り離されています。また、鉄道も部分的にはつながっていますが、すべての鉄道がひとつのネットワーク下で動いているわけではありません。そのおかげで、トラブルの連鎖を回避できている部分も大いにあります。

 また、現代の製造業では、電子商取引なども含めたネットワーク化は十分進んでいます。自動車産業などでは、後工程引き取り方式という生産方式でジャストインタイムを実現しています。さらに、工場間のネットワーク化も必要に応じて進み、工場内ではあちこちにセンサーがついて、産業用ロボットによる自動化も進んでいます。これらの技術的な進化により、内装の色やデザインなど、自分の好みに組み合わせた車も注文できるようになりました。

 このように、今でも必要に応じてネットワーク化は実現しているなか、4.0のいう「すべての工場をまるでひとつの工場のようにネットワークでつなぐ」というのは一体、何を実現しようとしているのでしょうか。今よりももっと便利になることは素晴らしいのですが、そのコストパフォーマンスは成り立つのでしょうか。オーバースペック(過剰仕様)のプロダクトアウト的発想ではないのでしょうか。

「仮定」と「希望」が多分に含まれた概念

 4.0には、ほかにもいろんな問題点、課題がたくさんあります。基幹技術であるセンサーについても、まだまだ技術的課題も多く残っています。4.0では、設備に取り付けられたセンサーが機械の故障を診断するといっていますが、今のセンサーの技術では、精度よく診断をすることができないケースも多くみられます。

 4.0が主張する世界の工場がまるでひとつの工場のようにシステム化された場合、国家、企業体という形はどうなるのでしょうか。そのネットワークで生み出された利益は誰のものになり、どの国に税金を納めるのでしょうか。ネットワークに組み込まれた下請け企業は、利益構造をすべて把握されるため、自分達で販売価格を決めることさえできなくなるでしょう。その結果、企業として存在することさえできなくなるかもしれません。

「仮定」と「希望」が多分に含まれた概念、そしてネットワークの巨大化がもたらすデメリット。さまざまな技術的な課題とそれに対する都合のよい希望的観測。国家、企業体の概念さえ変えようという思考。しかしながら、壮大な概念の割には、それによって得られる大きなメリットがよく見えてこない。少し見ただけでも、4.0は本当に「革命」となるのか、それとも「単なる空想」にすぎないのか。いろいろと考えさせられますし、今の日本における盛り上がり方を見ていると、むしろ、もっとしっかりと考えるべきだと思います。

 そこで、本連載では、次回以降もこの「インダストリー4.0」について、さまざまな視点から検証していきたいと思います。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

経営学修士、中小企業診断士、岡山県立大学地域創造戦略センター客員教授
神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程中退(経営学修士、MBA)。日本屈指の高収益企業、キーエンスの新商品・新規事業企画担当を歴任。退職後、新規事業や新製品開発、ビジネスの付加価値向上などの分野において、大企業から、中小企業まで幅広い業種・企業の指導に携わる。一般消費者向けの小売店、ネット販売企業などにおいても、ビジネスモデルの転換、収益力向上、新製品開発などで数多くの実績がある。
最近では、次世代自動車(CASE)、次世代通信、ロボット、AI、IoT、VR・AR、農業クラウドサービスなど、さまざまな最先端・成長業界における新規参入の支援を、上場企業をはじめ全国の企業に行っている。こういった企業への指導実績から、テクノロジーについても非常に詳しく、最先端分野の知見を有している。専門分野は、ブルーオーシャン戦略、事業戦略、技術経営(MOT)、Webマーケティング。
コンセプトエナジー株式会社

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