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築地市場解体、周辺エリアが恐れる「ネズミ1万匹」一斉放出&大移動…甚大な被害も

文=小川裕夫/フリーランスライター
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築地市場解体、周辺エリアが恐れる「ネズミ1万匹」一斉放出&大移動…甚大な被害もの画像1築地市場(「Wikipedia」より/Chris 73)

 10月10日、築地市場は83年の歴史に幕を下ろした。約2年にわたる移転の凍結は、結局のところ何も問題を解決しないままだったが、市場が豊洲に移ったことでいったん問題は収束したかのように思われた。

 しかし、現実的に問題は山積している。建屋解体と残された場外市場の今後が定まっていないのだ。

 日本橋魚河岸と京橋青果市場を統合し1935年に誕生した築地市場は、卸売市場法に基づいて設置・管理されている。同法が適用される築地市場は場内市場(場内)と呼ばれる。一方、周辺に形成された店舗群は、場外市場(場外)と呼ばれて明確に区別される。場外の店舗は卸売市場法の適用範囲外で、平たくいってしまえば街にある商店街と同じ扱い。そのため、卸売市場が築地から豊洲に移転しても、場外市場はそのまま築地に残る。

 築地市場が豊洲に移転することが決まった際、築地に出入りする業者たちは非効率だとして反対した。なぜなら、場内と場外は不即不離の関係にあり、一体となってこそ築地は本領を発揮する。どんなに最先端の機能を有していようと、分散して別々に機能していたら意味がない。豊洲は、ただ図体がデカいだけの市場になってしまうのだ。

 場内で取引される水産物が、一級品であることはいうまでもない。ただ、それだけで築地ブランドが確立したわけではない。銀座や日本橋の高級料亭・レストランは全国各地から送られてくる新鮮な水産物を築地から仕入れてきたが、水産物を扱わない場外もこれら飲食店には欠かすことができない存在だった。

「築地から豊洲に市場が移転しても、東京都は『マグロなどの取引・流通はこれまでと変わらない』と説明しています。確かに、築地で売買されていた水産物は同じ品質を保つでしょう。しかし、飲食店は水産物だけを提供しているわけではないのです」(東京で複数の飲食店を経営するオーナー)

 もちろん、お客が口にするのはマグロやサケなどの水産物がメインだ。しかし、マグロの刺身を食べるにしてもワサビや醤油、塩、海苔といった調理に欠かせない食料品・調味料が必要になる。そのほかにも、刺身に添えられるツマ、箸や茶碗、調理器具なども一級品を揃える必要がある。

 高級料亭やレストランでは、プロの職人がこだわり抜いた品を使う。見た目は同じでも、街のスーパーで賄えるような品ではない。こうしたプロが使う逸品が、場外では幅広く取り揃えられていた。市場が豊洲に移転したら、場外というサポート役を失う。それは、相対的に場内のポテンシャルを低下させる。

 結局、飲食店は豊洲で水産物を仕入れた後に場外に立ち寄らなければならず、二度手間を食わされる。

ネズミ問題

 豊洲移転は、そうした業者の手間を増やしたことや場外を疎外しただけに終わらない。今、場外関係者たちは築地を恐怖に陥れ、銀座や日本橋の高級料亭・レストランの価値を毀損させる事態が起きることに戦々恐々としている。

   東京都は11月中に築地の建屋解体を実施する方針にしており、その解体工事で場内に巣食っていた大量のネズミが一斉に周辺へと移動することが予想されている。

 東京都は、場内に巣食うネズミは約3000匹と想定。全6回の駆除を計画した。これまでに4回、約4万枚の粘着シートを使ってネズミの駆除を実施。1回の駆除で約700~800のネズミを捕獲したという。

 しかし、東京都の見立ては甘いといわざるを得ない。専門家の間では、築地に潜むネズミの実数は東京都の想定を大きく上回る「数千匹」「1万匹」という説も根強い。

 仮に1回の駆除で800匹のネズミを駆除しても、1万匹を全滅させることはできない。生き残ったネズミは短時間で繁殖を繰り返し、ネズミ算式に増殖する。大量のネズミを完全に駆除するのは不可能に近い。築地の建物内には無数の小さな穴や隙間、多くの配管があり、そこに潜むネズミは人の眼を潜り抜けて場外へと飛び出していく。東京都は自分たちの管轄である場内でしかネズミ対策に取り組んでいない。

 ねずみ駆除協議会の矢部辰男会長は、「場内から逃げ出したネズミは、場外に向かうだろう」と推測するが、先述したように場外は商店街のため、東京都はノータッチ。逃げ出したネズミたちが、場外の店を荒らせば大きな被害を生むだろう。いくら管轄外といえども、東京都にとっても、それは大きな打撃だ。

 矢部会長は「最悪の場合には電線・電話線がかじられて、火災などが発生することも想定される」と危惧する。

 また、ネズミが大量に徘徊するというイメージは、風評被害を生む。銀座や日本橋の高級料亭・レストランのイメージはガタ落ちし、経済的な損失も出るだろう。東京都にとっても大きな痛手だ。

 場外のある中央区職員は、ネズミが引き起こす事態に一抹の不安を寄せる。

「場外には複数の商店会と町会があります。築地のネズミ対策は、これらが一丸となったオール築地場外という組織で対応しました。今のところ、ネズミが増えたという報告は聞きません。それでも安心はできません。今後も注視する必要があります」

 前出の矢部会長も、ネズミ対策への甘さをこう懸念する。

「場外近接地にネコ用の餌(固形飼料と缶詰)がたくさん配置されていました。その周囲にはドブネズミの巣穴がたくさんあり、ドブネズミがこの餌を食べているのを目撃しています。ネコの餌は場外の関係者が置いたのでしょうが、無思慮さを感じました」

 たかがネズミだが、その脅威は計り知れない。では、築地のネズミが周辺エリアに分散する可能性はあるのだろうか。

「移動したとすれば、ほとんどが場外市場です。その他の地域には、途中にバリア(幅広い道路や隅田川、長い橋)があるので、分散困難と推測されます」(矢部会長)

 閉場したことで一件落着したかのように見える築地問題だが、11月中に始まる建屋解体以降が真の正念場になるかもしれない。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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