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三浦展「繁華街の昔を歩く」

新潟・越後高田、日本最古の映画館が、全国的に注目を浴び始めた理由

文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表
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 私は津端修一夫妻にご自宅で二度ほどお会いしたことがある。津端さんの設計した、東京・杉並にあった阿佐ヶ谷住宅という名作団地に私が一目惚れをして、知り合いの建築専門家と共に本をつくったことがあるからだ(『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』)。だから高田でも『人生フルーツ』が人気だと聞いてうれしく思った。

 また、私の昔勤めていた会社の後輩が、高田出身の女性と結婚したというご縁もある。東京に住む彼の娘が世界館を訪れ、夏休みの宿題に取り上げたのだが、これが面白い。

「いつも行くシネコンとちがって、映画館らしくないなあと」思った。「なぜならチケットがそぼくで、人が売っているし、それに人が一人でやっているからです」。「お客さんが0人のときもあるそうです。東京の映画館では300人くらいがふつうだから、びっくりしました」という調子。そうだよ、映画館は昔はチケットを人間が売っていたんだよ。まあ、今でもミニシアターはそうだけどね。

4.映画館、カフェ、居酒屋などの連携

 世界館では映画上映だけでなく、新潟県のアイドル、Negicco(ねぎっこ)のライブ、地元のアマチュアバンドのロックコンサートなど幅広い活動をしている。こうした活動により、単なる映画館としてではなく、地元の文化娯楽拠点として市民に親しめる場所になることを目指している。

 また、2017年には、新潟県出身の漫画家水森暦さんが少女漫画雑誌「別冊花とゆめ」に連載した「世界は今日もまわってる」に、世界館をモデルにした映画館が登場し、上越市内の風景も登場したことで、SNSで全国に知られるようになり、一般雑誌の取材も増えたようだ。2017年の『少年ジャンプ』の新人賞応募作にも「高田世界館物語」という作品があるほか、NHKの番組にも取り上げられるなど、注目度は上がっている。

 上野さんは、世界館の仕事だけでなく、高田の街を変えていったり、紹介したりすることにも熱心だ。また映画館を核としてカフェとか、居酒屋などがと連携しながら昼も夜も発展するといいなと考えている。

 世界館の隣では、岸田さんが所有し、かつて事務所にしていた店舗を、カフェに貸した。店名は「世界ノトナリ」(「セカイノオワリ」ではない)。映画を見た後にちょっと一休みしたくなるが、郊外化によって廃れた日本中の中心市街地には映画館も喫茶店も少ないのが現状だ。高田も市街地には映画館は世界館だけだし、喫茶店も少ない。百貨店もなくなってしまった。

 それに比して、世界館が復活し、カフェも隣接してできたのは大変よろこばしい。

新潟・越後高田、日本最古の映画館が、全国的に注目を浴び始めた理由の画像3高田世界館の隣のカフェ「世界ノトナリ」と岸田氏

5.「百年」をキーワードに

 世界館以外にも100年の歴史を持つものがある。料亭である。

 前述の田端町は江戸時代以前には、高田の隣の港町・直江津にあった福島城の城下町であり、魚市場や卸し業が盛んだったが、高田城築城に伴い、この地に移転したという。移転後も魚の販売権利を持ち、川の水運を通じて新鮮な魚を仕入れ、魚料理を供する料理屋、割烹料亭が多く誕生し、1970年代までは大勢の芸妓が行き交う粋な町として栄えた。

 なかでも料亭の宇喜世は100年以上の歴史を持つ老舗である。江戸時代は魚の卸し業だったようだが、19世紀中頃には仕出し屋となり、幕末から明治初頭に割烹料亭となった。宇喜世では、昨年から「百年料亭ネットワーク」という活動を始めている。料亭としての歴史か建物が100年以上あるという条件で、全国の歴史ある料亭十数軒を組織したものである。

 陸軍の師団長の邸宅も移築されて残っているが、これも100年以上ということで、上越市では「百年建築」をテーマにした観光資源開発ができないかと検討中だという。

 呉服町という町名からもわかるように呉服の卸売・小売業が盛んだった高田には、明治時代にできた町家もまだ多く残っている。そのいくつかは公開されており、観光資源として活用され始めている。古い町家をリノベーションしたフレンチレストランも開店し、にぎわっている。また、歓楽街である仲町の飲食店をネットワークした「高田仲町ランチ+バル」や、高田と周辺の直江津・上越妙高・新井・北新井地区が共同した「じょうえつバル街」といった活動も始まっている。

 都会の若者の地方移住が増えているが、高田にも他地域からの移住がちらほら増えているようであり、彼らがカフェを開いたり、古い町家をリノベーションしてシェアハウスや民泊施設をつくったりという動きも出てきた。気質がおとなしく、あまり対外的にアピールするのが苦手な高田人だが、超高齢化、人口減少が進むなか、かつての繁華街としての歴史を踏まえながら、ようやく観光資源の発掘と宣伝に力を入れ始めているようだ。
 
 もちろん北陸新幹線の開通により東京からのアクセスが2時間と短縮された効果も大きい。海外からのスキー客も増えている。

 100年の歴史を持つ映画館と料亭と、新しいカフェやバルや民泊などが連携した街づくりが期待される。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)

新潟・越後高田、日本最古の映画館が、全国的に注目を浴び始めた理由の画像4宇喜世の大広間
新潟・越後高田、日本最古の映画館が、全国的に注目を浴び始めた理由の画像5
新潟・越後高田、日本最古の映画館が、全国的に注目を浴び始めた理由の画像6古い町家や病院などがたくさんある
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