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「合理的な判断」はグループで行われる理由

取材・文=大野和基/ジャーナリスト
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――その知識のコミュニティは「友人」や「友人の友人」も入りますね。

スローマン その知識のコミュニティの範囲については今、リサーチしているところで、友人も友人の友人も、ある意味では含まれます。誰がそのコミュニティを決めるのかという大きな問題があります。はっきりしているのは、どのコミュニティにもthought leader(思考プロセスのリーダー)がいるということです。政党には、党のアジェンダ(行動計画)を決めるリーダーがいます。宗教団体には宗教のリーダーがいます。

 もちろんどの政党も、どの宗教団体も、ほかのグループも、どれくらい特定の個人に頼るかは違いがあります。どの人の考えも尊重され、考慮されなければならないグループもあります。科学者や、すぐれた哲学者はその傾向があります。どれくらい自分の考えが聞かれるかは、あなたが誰であるかによるのではなく、話す内容によることが多い。

 明らかに我々の友人は、我々のコミュニティの一部です。彼らこそ我々の知識のかなりの部分の源です。友人から話をたくさん聞きます。彼らは自分が知らないことを教えてくれます。しかし、友人があることを信じたとして、それを我々が信じることができるかどうかは、明らかではありません。まだまだわからないことがあります。

自分が無知であることを知る重要性

――私はジャーナリストとして、いろいろな専門家に直接質問ができる立場にある、恵まれた環境にいます。それで専門家にインタビューするたびに、自分がいかに無知であるかを思い知らされます。

スローマン 私は学者として、しょっちゅうあなたと同じ経験をしています。絶えず、自分よりもいろいろなことについて知識がある人に出会います。今日の社会では、誰もが絶えず同じような経験をしていると思います。自分でそのことを認めるかぎり、問題はありません。人はそういう専門知識をそれぞれ持っていますが、我々がそれにアクセスできることが鍵となります。

――つまり、個人個人の無知は必ずしも悪くないということでしょうか。

スローマン 我々はみんな無知の状態にあります。有効な答えを求めるときの問いは、「あなたが個人として無知であるか」ということではなく、「あなたはその無知を理解して、可能であるときに、そのギャップを進んで埋める気持ちがあるか」ということです。あなたができるだけ合理的な決断をするために、できるだけ多くの知識を基にして決断するために、ほかの人が持っている知識を尊重するかということです。

――“Ignorance is bliss.”(知らぬが仏)という有名な格言がありますが、「知らぬが仏」である場合と、そうではない場合があります。それぞれ具体例を挙げてください。

スローマン 我々は自分とは異なる視点を無視することで、「知らぬが仏」であるかのように行動することが多いです。私が「ドナルド・トランプ米大統領はビジネスパーソンである」と信じているとします。でも誰かが、「彼はビジネスパーソンではなく詐欺師である」という証拠を見せても、私はその人の言葉に耳を傾けないかもしれません。自分の感情を逆なでするような情報を無視することで、世の中について自分が話しているストーリーが正確であると信じてしまいます。この種の無知は「仏」です。

 また、自分は他人の知識に対してオープンであるという意味では、「知らぬが仏」になり得ることもあります。美術館に行ったり、レクチャーを聞いたり、インターネットで調べたりすることで、自分がいかに無知であるかを理解することで、いろいろなことを学ぶことができます。自分の無知を受け入れることは一種のbliss(至福:仏)をもたらすことがあります。

 自分が無知であることを知らない場合は、「知らぬが仏」ではありません。というのも、自分が無知であることを知らなければ、それがいろいろな問題を引き起こすことになりかねないからです。傲慢にもつながります。自分が理解していないことを理解していると思い込むことにもつながります。短期的には快適かもしれませんが、長期的にみるとさまざまな問題につながります。でもほとんどの人がこの性質を持っています。我々は自分が実際に理解している以上に、理解していると思い込む傾向があります。

 無知に関する、より大きな問題は、真の理解を提供しないところから、理解している感覚を得る傾向があることです。ほかの誰かが理解していると知ることだけで、自分も理解していると思ってしまう、というエビデンスがあります。理解していると思い込んでいる人に囲まれると、自分まで理解していると思い込んでしまうのです。

 周りの人が理解しているから自分も理解していると思っていると、その人たちは真の理解がないところで、何かを理解していると思い込んでいる人だけになる可能性があります。実際に今、このことが世界中で起きていて、非常に危険です。
(取材・文=大野和基/ジャーナリスト)

後編に続く

スティーブン・スローマン教授 認知科学者。ブラウン大学教授(認知・言語・心理学)。「Cognition(認知)」誌の編集長を務める。”The Knowledge Illusion”(直訳は“知識の錯覚”翻訳版である『知ってるつもり―無知の科学』(早川書房)の共著者。

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