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成馬零一「ドラマ探訪記」

『獣になれない私たち』に感じる「これ以上ない手応え」…ハードな世界観を生んだ「本気度」

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家

 今年も残すところあと1カ月弱となってきたが、2018年のテレビドラマは野木亜紀子の年だったと言っても過言ではないだろう。

 まず、冬クール(1~3月)に連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)を執筆。『科捜研の女』(テレビ朝日系)や海外ドラマ『CSI:科学捜査班』シリーズなどで知られる科学捜査モノの作品だ。不自然な死を迎えたご遺体を検死することで、背後にある意外な真相にたどり着くという展開には、毎回驚かされた。

 野木の作風は、一言で言うと社会派エンターテインメント。現代日本における労働問題や女性差別の問題を盛り込みながらも、説教くさくならずに娯楽作品として楽しく描くことを得意としている。それがもっともうまくいったのが、16年のヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)だろう。本作を手がけたことで、野木の名前は広く知られるようになった。

 今までは『重版出来!』(同)や『逃げ恥』のような原作モノの脚色を得意とし、アレンジャーとしての評価が高かった野木だが、オリジナル作品の連ドラ単独執筆は『アンナチュラル』が初めてだった。そのため、仕上がりがどうなるか当初は未知数だったが、作家としての力量を存分に見せつける仕上がりだったといえるだろう。

 そして、10月にはNHKの土曜ドラマ枠にて『フェイクニュース』を前後編で執筆した。インスタントうどんに青虫が入っていたというSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への投稿がきっかけで始まる事件をネットメディアで働く女性記者の視点で描いた本作は、ひとつの情報がネットで拡散され広がっていくことが巻き起こす騒動を見事に戯画化していた。

 物語は二転三転し、加害者と被害者がコロコロと入れ替わっていく。前後編という短い尺に盛り込まれた物語の密度はすさまじく、見る者を圧倒する迫力に満ちていた。

『逃げ恥』とは真逆の『けもなれ』

 そして現在、佳境に入っているのが日本テレビ系で水曜22時から放送されている連続ドラマ『獣になれない私たち』(以下、『けもなれ』)である。

 物語の主人公は、IT企業で働く30歳の女性・深海晶(新垣結衣)。ブラックな労働環境に疲弊し、恋人の花井京谷(田中圭)は引きこもりの元恋人とマンションで同居しているため結婚できない深海が精神的に追い詰められているところから、物語は始まる。

 クラフトビール店「5tap」で飲んでいるときだけが心休まる晶は、そこで税理士の根元恒星(松田龍平)と知り合う。タイトルにある「獣になれない」とは、晶と恒星のことだ。2人とも仕事ができて理性的に振る舞うことができるがゆえに、他人に心を許すことができず追い詰められている。

 当初は同じ新垣結衣主演の『逃げ恥』のようなラブコメになるかと思われたが、蓋を開けてみたらハードなストーリーに多くの視聴者が驚いた。現代社会に生きる女性にとっての仕事と恋愛を描いているという意味では『逃げ恥』の延長線上にある作品だが、楽しいラブコメとして見せることで仕事と結婚というテーマを口当たりよく見せていた『逃げ恥』に対し、『けもなれ』は話数が進むほどハードで重々しい展開になってきている。

 チーフ演出は水田伸生。『Mother』『Woman』『anone』といった坂元裕二脚本の社会派ドラマや宮藤官九郎脚本の『ゆとりですがなにか』(いずれも日本テレビ系)の演出を手がけた水田は、シリアスな描写で社会派娯楽作品を撮ることに定評のある実力派。その意味で、社会派エンターテインメント作品を得意とする野木とは相性がよかったのだが、相性がよすぎて先鋭化しすぎたために、『逃げ恥』を楽しんでいたようなライトな視聴者は振り落とされる結果となっている。

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