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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

大阪万博の136年前、パリ万博の“ジャポニズム”がピカソやゴッホの名画を生んだ

文=篠崎靖男/指揮者

日本ブームが巻き起こり、芸術分野にも大きな影響

 その後、オーストリアも負けてはいられないと、大国の張り合いのようになり、1873年にウィーン万博が開催されたのですが、この頃の日本は明治時代。明治政府により日本館が設置され、日本庭園もつくられて高さ3.6mの大提灯や、東京谷中の五重の塔の模型、鳥居、神殿、そり橋を展示。館内では浮世絵や工芸品も紹介し、日本文化を初めて目にする欧米人は大きな感銘を受け、日本ブームが起こりました。

 そして、入場者数は2610万人を超え、エッフェル塔が目玉となった1889年第4回パリ万博で、“ジャポニズム”は最高潮を迎えるのでした。

 さて、芸術面でもジャポニズムは当時、行き詰まりを見せていたフランス絵画界を大きく変える原因のひとつにもなったことは広く知られています。専門家からお叱りを受けるのを承知で言いますと、モネも、ゴッホも、ピカソも、ジャポニズムがなければ大画家にはなっていなかったと思います。

 たとえばモネは、自宅に日本庭園をつくり、池には日本の太鼓橋がかかっているほど日本好きでした。名画『睡蓮』は、その風景でもあるのです。またゴッホは、その短い人生の晩年に、「日本に少しでも近い風景を」との思いから南フランスに移住。地中海の海岸を日本の海岸に見立てていたほどです。ちなみに、ゴッホが浮世絵を模写した絵画が残っているのですが、そこにはオリジナルに書かれている「漢字」までも正確に書かれています。

 フランスの画家たちは、日本の芸術文化、特に浮世絵に大衝撃を受けたのです。これまでのヨーロッパの芸術は、基本的にシンメトリーで、画面の中の色彩や形のバランスを整えるのが主流でした。しかし、日本の浮世絵では、たとえば、背景の色とはまったく関係のない派手な黄色で描かれた橋が、大きさもデフォルメされ、大胆にも画面を斜めに横切っていることに、画家たちは度肝を抜かれたのです。そう思って鑑賞すると、ゴッホの『ひまわり』も、日本画のように見えませんか? ちなみに、オランダのゴッホ美術館には、本人が収集した浮世絵400点が収蔵されています。

 その後、ピカソをはじめ次世代の芸術家たちも、ジャポニズム画家の影響を強く受けたことも、よく知られています。

 音楽の世界でも、フランスの有名な作曲家・ドビュッシーが1905年に作曲した代表作の『海』の楽譜の表紙に、本人の強い要望により、葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』が印刷されていたくらい、ジャポニズムはモードの最先端でした。ちなみに、『神奈川沖浪裏』は、日本の銭湯の壁に描かれている有名な絵です。銭湯を通じて、日本とフランスがつながっていると考えると、何か楽しくなります。

 大阪万博に話を戻します。僕は2歳の頃に、前回の大阪万博に行った思い出がかすかにあります。少し大きくなってから、名神高速道路上から岡本太郎作の『太陽の塔』を毎回見て驚いていた思い出のほうが強いですが、音楽大学の受験勉強を少し休んで行った1985年の筑波万博では、今では当たり前となった「3Dシアター」を見て、これまで想像もしなかった光景に心から驚いてしまいました。その100年前の欧米の人たちが、日本の浮世絵や工芸、庭園を見て驚いたのも、同じだったかもしれません。

 2020年の東京オリンピックも迫ってきました。そして、2025年の大阪万博では、我々に何を見せて、驚かしてくれるのでしょうか。僕は、芸術家としても、楽しみにしています。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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